第2話 転生
世界から、太陽の光が消える。
草原をひたすら歩き、月に近づくごとに太陽が落ちていき、ついには山の裾野にその姿を隠しのだ。
夜の闇が辺りを暗くする。
それでも、夜空には明るい満月と星々が微かに辺りを照らしてくれる。気休め程度にしかならないが、ないよりはマシだ。
目を閉じれば、風が草原を揺らす『ザァァァァァ』とした音がはっきりと聞こえてくる。風をいっぱいに受け、思わず涼しさを覚える。
そういえば、と今いるこの死後の世界(?)の季節がなんなのか、いやに気になった。
なぜだかはわからない。だがそれがとても重要なことだと心の奥で囁くものがあった。
その声に促されるかのように目を見開く。目に飛び込んできたの満天の星空。青、白、赤、黄に橙の星々が無数に光り輝いているのだ。それだけではない。
いつのまにか、満月が頭上にあったのだ。何かの始まりを告げるように、厳かで静謐な光がより高まった。そんな、気がした。そして、それはただの思い込みでしかなかった。
ピシリッ パリン
と、空に浮かんでいた月がまるでガラスを割るようにして砕けた。それを目にした瞬間、先ほどまで抱いていた情緒は全て消え去った。
ヌッ、と擬音が聞こえてきそうな大きさの黒の手。それが月を砕いたのだと察せられる。そして、手はまっすぐに自分の元へと降りてくる。
おもちゃが、子供の手で取られる時の気分はこのようなものだろうか?
そんな考えをしているうちに、手は自分の目の前で止まった。
だが、それは一瞬のことでしかない。
ぐにゃり、と異様に形態を崩して、黒色から白色へと変色していく。手から腕、肘、そして最後には、砕けた月の奥に少し見える肩まで。
完全に白一色となった有様を見て、ただただ神々しく美しいと思った。
それは手の色と形、その姿から感じられる力と畏怖の念から呼び起こされたもの。だが、それだけではないのだ。なぜなら俺は、その手を通じて神の姿、力を理解させられたのだ。
あまりに強大な力を前にしては、全てが無意味に感じられる。それと同じことで、立ち向かうことはもとより、逃げることすら頭に上らなかった。
だから、ゆっくりと体を掴もうとするその手を受け入れた。その先に何があるかなんて考えもしなかった。いや、考えたところで意味がないと切り捨てた。
そして、それは正しかった。
手が俺の体を握りしめた瞬間、あらゆる知識と力が脳内を駆け巡っていった。だが、その知識と力について認識できたのは最初の瞬間のみ。後から後から流れ込んでくる知識を把握しきれず、まるで頭に焼印を押されたかのような痛みとなる。プラスして、体からも悲鳴が上がる。
無理矢理押し込んだ知識の処理、力の適応をしようとした結果生まれた痛みだ。とは言え、そんなことを痛みに苛まれていた俺は理解できるはずもなく、絶叫を浴び続けるしかなかった。
痛みが引いたのはどれくらい経ってからか。
空に浮かぶ月がまったく動いていないからあまり経っていないのだろう。などといった予想ば、この奇想天外な世界においては意味をなさないことなどすぐわかる。
結局のところ、あまり当てにならない体感でしか予測はできない。
その体感も、痛みで正常な判断などできていないこと間違いなしだ。
考えてもわからないということで結論づけた後にするのは得た知識を頭で整理することだ。
真っ先にに頭に浮かんできたのはこの死後の世界の知識。
ここは、神が人をいわゆる『転生』させるために作られた世界。これまで通ってきた場所は全て、異世界からの人を転生先の世界に適合させると共に、知識と力を与える装置だそうだ。
人を一人転生するために毎回中身を変えており、そのためには一度転生させる人、転生者の情報を収集し、力を与えられる神を選定。さらに神々の許諾を得た上で、許諾を得た神々で集まって世界を再構築する。などなどの解説までご丁寧にしてある。
さらには、転生者に神が力を与える基準とその相性。これまで与えられてきた力の種類、転生者の生死や転生後の功績を含めたプロフィールや、得た力の詳細、などなど。全てを羅列するだけで1時間以上かかりそうだ。
はっきり言って、序盤に判明するような知識じゃねぇだろ、と言いたくなるようなものばかり。
全て、どのような知識をインプットされたのかを確認しただけで、詳しい中身まで把握したわけでもないが、これだけでもあっぷあっぷと情報の海に溺れてしまう。
「はぁ」
と、溜め息を吐いて知識の確認を一旦切り上げる。これ以上見たところで把握しきれない。
いくつか重要な情報のみに集中しよう。
まず、この世界で得られた力というものはなにか、と意識をすれば、出てくる出てくる。
あぁ、その情報はいらん。
出てきたのはどういった過程を経て異世界人をこの世界に適応されるかといった知識だ。
──異世界人の生きていた惑星とこの世界において人類が生存している惑星の空気や重力の大きさ、身体構成成分など多くの項目において微細な違いがあるため、同じ人類であっても異なる進化をしている。そのため、魂をそのまま肉体に移植すれば、拒絶反応により精神崩壊を起こす可能性が高い。また、精神性においても虚弱なものが一定数存在するため、これに該当するものの矯正をしなければ精神崩壊を起こす。以上を総括して、異世界人を適応させるためには段階を踏んだ転生をしなければいけない。大まかな概要として、第一段階として意識を呼び覚まし、次の第二段階で体に触覚を意識とつなぐ。ここが一番重要で時間がかかるもので、つながないと精神が歪んだり、壊れたりしてしまう。万が一のため、精神の治療をする機能もあるが限界があるため注意が必要である。またこの機能は第四段階と第五段階の間に行われ(以下略)。
長い長い長い。
打ち切るように頭を振って、与えられた力について意識を向ける。今度こそ頼むぞ、という願いは聞き届けられたのか、流れていくのは間違いなく求めていたもの。
──異世界人、類型ψにおける神αの加護『流転する運命』を取得。加護の力は、異世界人が世界位与えた影響によって、運命への干渉権を得る。この力に理論上不可能はない。また、この加護を持つものが寿命及び自死以外において死ぬことは不可能である。
わかりやすく概要だけを求めたからか、わかりやすいが、情報不足は否めない。もっと深く理解しようとしたが、曖昧な理解にとどまった。これは、俺の理解力の限界というやつだろうか?
悶々としていると、草原が消えていき真っ白な世界となる。
あぁ、この世界は力を理解すると転生を行うなんて説明もあったかな?
その思考を最後として、この世界から俺は飛ばされたのだった。
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