第21話 楽しみと新たな問題

 そうしてラズリーは平穏な学園生活を送る事が出来た。


 学生結婚という事で色々とざわついたりもしたが、早くに相手との愛を誓い合ったという事で、羨望の眼差しを向けられる。


 やや馴れ初めに脚色は付いたものの、幼い頃からの純愛を貫いたという事で、美談化された。


 余計な言い寄りは最早ない。


 そんな事をすれば空気の読めない者扱いされるし、国王の祝福に立てつく事になるからだ。


(快適なのはいいけれど、少し寂しい事もあるのよね)


 ファルクからの過度なスキンシップが落ち着いたのはやや残念に思えた。


 だが、これが男女の適切な距離なのだとアリーナとルールーに指摘され、ラズリーは驚く。


「今までの距離が近かったのよ。これくらいが丁度いいの」


「そうそう。それと今のうちに青春を謳歌しましょ。卒業したらこんな風に遊べなくなるわ」


 ファルクの束縛が緩和した事で、三人で街に繰り出すことも増えた。


 渋々ながらもファルクは許可を出してくれて、時々ファルクもついては来るけれど、その頻度はだいぶ少ない。


「何もないと思うけど、気をつけて」


 ラズリーを信じてこうして送り出してくれる事が増えたのも、婚姻したからであろうか。


(それともお義父様に言われたからかしら)


 説教というか何というか。何やら最近は父子で話すことが増えているらしい。


 婚姻に対しての事や護衛騎士になるという事の大変さを、改めて話し合っているようだ。


 そしてあまりラズリーを束縛しすぎるなと言われたらしい。


 その為なのかファルクもやや落ち着き、顔つきも変わったような気がする。


(私も卒業までに頑張らないと)


 時間は有限だ。


 こうして友人達との時間も大切にしつつ、二人の将来の為にもっと頑張らないといけない。


 薬師として将来国に仕えるために、知識と実践を積まないといけない。


 薬師と言えば、オリビアはあの日から姿を消した。


 自分からなのか、それとも家の意向なのか、学園では見なくなったし話も聞かない。


 知っていそうなリアムに聞いてみても微笑まれるだけで、詳細は教えてもらえなかった。


 そうなれば誰に聞いても教えては貰えないだろうし、誰もその話に触れないから、真相はわからない。


「もしもお互いにこういう勉強を続けていたら、どこかで会う事もあるのかしら」


 会いたいとは思わないけれど、可能性はゼロではない。


 とりあえず、人の恋路や人生を邪魔しないような人になって欲しいと願うばかりだ。



 ◇



 すっかり落ち着いた学園生活だが、もうすぐ長期休みに入る予定だ。


 遠くから来ている生徒も多いので、休みの間、地元へと戻るという者も多い。


 ラズリーはそういう事がない為に、何をして過ごそうかと考えていたのだが。


「リアム様の外遊の付き添い?」


 ファルクに誘われて驚いた。


 長期休みを利用して海の向こうの国に行く予定なのだそうだ。


「そう。俺ももちろん行くが、回復魔法が使えるラズリーも一緒に行って欲しいと言われたんだ。他の薬師も行くからそこまで気張る事もないし、いい経験になると思うんだけど、どうだろう?」


 公務ではないお忍びの旅行で、リアムだけでなくフレイアも行くらしい。


(まぁ卒業前に羽を伸ばすようにという事かしら)


 卒業したらリアムもフレイアも、それぞれ王族や皇族としての仕事をしなくてはならない。


 今は学生だからそこまで多くはないそうだが、恐らくこれが自由に動ける最後の旅行。


 卒業の年になれば本格的な仕事が増えるだろう。


(リアム様もフレイア様もまだ婚約者も決まっていないし、それを決める為もあるのかしら)


 海の向こうの国からそれぞれ縁談が来ているのは話で聞いている。


 二人共跡を継ぐもの達ではない為に、国と国を繋ぐための婚姻をする可能性が高い。


(想い人がいても必ず報われるわけではないのよね)


 自分の為ではなく、家族の為に。


 ましてや二人は国の為に選ばなくてはいけないという重圧もある。


「私で良ければお供するわ」


(少しでもお力になれると良いな)


 ラズリーが呼ばれた意味は薬師が必要という意味の他にも、何かあるのかもしれない。


 けれど、今はそんな事わからないし、少しでも快適な旅行を出来るようにサポートしたいと思う。


 父と母の許可は既に取っているらしく、後はラズリーの意思確認だけだそうだ。


(そう言えば昔はお父様も、こうして他国へ行く際に付いていったと言ってたわね)


 昔は国同士の争いがあった為に、今よりも他国へ渡る時はピリピリしていたそうだ。


 それがこうして安全に行くことが出来るようになったというのは、平和な証である。


 他国へ行く経験はあまりないし、こうして夫であるファルクと行くことが出来るなんて、今から楽しみだ。


「ワクワクするわ。お父様やお母様にも旅の心得を聞いて、準備しないと」


 新たな予定にラズリーの胸は高鳴っていた。



 ◇◇◇



 ラズリーが嬉しそうにする反面、ファルクは気が引き締まる思いだ。


 楽しい旅行で終わればいいが。


「リアム様に決断させろというのは酷な仕事だな」


 国王がこの度ファルクとラズリーの婚姻を認める条件として、代わりに出された指令がある。


「リアムには第二王子としての責務がある。外交という大きな仕事もな」


 学生という事で先延ばしにしていたが、リアムは卒業までに婚約者を決めなくてはならないと言われていた。


 海の向こうの国、ヒノモトから、度々リアムと王女の婚約を結びたいと言われ、その度に断りを入れていた。


 しかし、ただ好きな人がいるというだけで諦めてくれる事もなく、リアムが婚約を誰とも結ばない事で、段々と話がこじれてきてしまっていた。


 このままではヒノモトとアドガルムとの交流に亀裂が入ると懸念される。


 その前にリアムにどうするのかを決めさせなくてはならなかった。


 サーシェか、それともヒノモトの王女か。


(せめてサーシェにその旨が言えたなら、婚約をしてくれそうなのに)


 リアムが言いたがらないから厄介だ。


「それで頷いて貰っても、俺は嬉しくない」


 それを言っても受け入れて貰えないかもしれないけれど、万が一受け入れでもしたら、きっとお互いの心にしこりが残ってしまう。


 それが嫌なのだそうだ。


「かといってヒノモトに行くとなったら、俺もリアム様についていくようになり、ラズリーと共にいられなくなるかもしれない。由々しき問題なんだが」


 昔ならば政略結婚が主流で、リアムは選ぶこともなくヒノモトへと婿として行ったかもしれない。


 この国の国王夫妻も政略結婚で結ばれた。


 王妃は他国の王女で、人質としてこの国に連れて来られたのである。


(見た感じそんな様子は全くないのだけどな)


 悲壮感などは感じられず、仲睦まじい夫婦として有名だ。


 国王陛下の働きぶりや施策によって学園も設立され平均して教育を受けられるようになり、恋愛に重きを置いた結婚が増えたのもある。


 そして国王はなんだかんだ言いつつも、ヒノモトの王女との婚約を結べとリアムに命令をしない。


 だからリアムやフレイアも想い人との婚姻が叶うと思っていたのだが……。


(強めに後押しをしないといけないな)


 自分とラズリーの為にもこの旅行の間に、リアムとサーシェの仲を深めなくてはいけない。


 ファルクは私生活を掛けてこの仕事を必ずやり遂げないといけなかった。


(この旅行で急接近出来れば、リアム様も俺も幸せになれるはず)


 国としては困るかもしれないが、リアムの恋が成就しないとファルクが困る。


 遠距離別居婚なんては、嫌だ。


 自分とラズリーの幸せの為にも必ずやり遂げなければいけない仕事だ。



 ◇



 そんな重大な問題を抱えているとは知らず、ラズリーはとても楽しみにしていた。


「もしかしてこれって新婚旅行?」


 二人きりではないし、敢えて言うならば仕事で行くのだが、浮かれていたラズリーはそう考えるだけでドキドキとしてしまう。


「最近デートも少ないし、手を繋げたら嬉しいな」


 清い関係をしっかり守りつつ、程々の付き合いになってしまってやや寂しさを覚えていたラズリー。


 この旅行で前のように少しだけ親密に触れ合えたらと、そう考えるだけで笑みが溢れてしまう。


 この旅行が自分達の将来の明暗を分けてしまうとも知らずに。








◇◇◇


お読み頂き、ありがとうございます。


別な所でコメント頂いたので、追記しますが、別れるとかではなく、一波乱またある感じくらいです。


ハピエン、両思いを掲げてますので、離縁とかはありませんm(_ _)m



シリーズものとして、繋がる終わりにしたかったのですが、配慮の足りない終わり方をしてしまって申し訳ございませんでした。







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釣り合わないと言われても、婚約者と別れる予定はありません しろねこ。 @sironeko0704

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