深層の桜
八重桜 あい
第1話
深層の桜
飲み会の帰り。地下鉄、いつもの駅で降りる。
地上へ上がる階段、こんなに長かったか?
少し飲みすぎたかと思いつつ、登りきる。
ほろ酔いの頬に春の夜風が心地良い。
風に乗ってほのかに花の香りがする。
桜?
風を感じながら歩いていると、風景がいつもと違うことに気づく。
水面にゆらゆらと月が浮かんでいる。
一つ先の駅で降りたのか?
先の駅は、近くにお堀や河がある。
確かに駅名を確認して降りたはずだが?
一駅歩いて戻ることにした。
しばらく歩くと目の前に先程の水面が広がっている。
5分程歩いた気がするのだが・・・
どうやら、歩道から階段を降りて水辺まで来てしまった様だ。
酔いを覚まそうと階段に腰を下ろす。
名前も知らない草がサラサラと揺れている。
ふいに声がした。
優しい声 『大丈夫ですか?』
自分 『えっ?』
優しい声 『お疲れの様ですね』
自分 『・・・大丈夫です』
と答えたが、残業続きで疲れている。心底。
今日も早く家に帰りたかったが、断れず。
優しい声 『そうですか。身体も心もお疲れに。他にもおありのようですね』
心の中で呟いたつもりだったのだが。
優しい声 『今夜は、心地良いですね。私も少し・・・』
語りかけてくれているのは分かったが、内容が入ってこない。
ただ、子守唄の様に穏やかだ。
相手の顔を見ようとして、ふと、足元が冷えていることに気づいた。
自分 『足が・・・』
すると、誰かがツンツンと袖を引っ張る。そして、別の声がした。
別の声 『此方へ』
誰かが手を繋いだ。
誰?
ふわりと、桜の花の香りがした。
・・・足元が寒い。
どのくらい経ったのだろう? うつらうつら目を開ける。
どうやって帰ったのか? 自宅、玄関の上り口に寝ていた。
膝から下が濡れている。くるぶしあたりから下は、泥だらけ。
履いていた靴は見当たらない。
手に桜の花を数枚握っていた。
窓が少しだけ空いている。
微かに桜の香りが・・・
深層の桜 八重桜 あい @800ai
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