第7話 菜緒の葬儀とサクラの未来
翌日、私は火星教会へと赴き菜緒の葬儀について相談した。教主の加賀様は快く引き受けて下さった。
「問題は火葬ですね。人間用の火葬場では彼女の体は処理できませんから……どうしますか? 何か高熱を発するもので溶かしてしまってよろしいでしょうか?」
「わかりました」
「では明日の正午から礼拝堂にて帰天式を執り行います。その後、東の山地で埋葬しましょう」
埋葬……そこまでは考えていなかった。
私は加賀様の提案をそのまま受け入れる事にした。
翌日の正午、火星教会のこじんまりとした礼拝堂において帰天式が執り行われた。参列者は私と教会で育てられている孤児が十名ほどだった。菜緒の意識は光に包まれていた。そして菜緒は私に向かって深く一礼した後、周囲にいた光り輝く人たちと共に消えてしまった。
埋葬する場所への移動は私の装甲車を使った。菜緒の筐体を乗せて運転席に座る。助手席には加賀様、後ろの席には女の子が三人乗ってきた。彼女達は美冬、ノエル、球磨と名乗った。埋葬場所は東の山地だ。この付近は積雪が多く、今の市街は十数メートルの氷の上に建設されたものだ。しかし、その山へ行けば凍ってはいるが土があり、いくつかの墓標も立てられているのだという。
「故人のご希望は火葬で間違いございませんね」
「はい」
「ではそこの土の上に。両腕は胸の上に。両脚もできれば折り曲げてお腹の上に乗せられませんか?」
「わかりました」
私は菜緒の両手は胸に置き、両脚の膝から下を取り外してお腹の上に置いた。まだ小さい球磨は菜緒の体に興味があったのか、私の作業を手伝ってくれた。
「では始めます。今日が穏やかな日で良かった」
加賀様は懐から手りゅう弾のようなものを取り出して、菜緒の胸の上に置いた。それはシューっと白い煙を吐きながら、突如激しく火花を散らして燃え始めた。高温の火花は瞬く間に菜緒の体を炎に包み、更に激しく火花を散らしながら燃え盛かった。
三十分ほど経過した頃には菜緒の体はほぼ燃え尽き、少しの溶けた金属の塊が少しの煙を上げていた。
「美冬。骨壺を」
「はい、教主様」
黒髪の少女が持っていた小さな骨壺。
私は長い箸を使い菜緒の残した金属の破片を拾って小さな壺に収めた。
再び涙が溢れて、私は破片をつまめなくなった。銀髪の少女ノエルと美冬は私と一緒に泣いてくれた。私の代わりに球磨が全部の破片を拾い上げてくれた。
「ではこちらへ」
加賀様が案内してくれたのは、日当たりが良い斜面だった。そこにはいくつかの墓石が設置してあり、人の名が刻んであった。
「ここには教会関係で亡くなった方を埋葬しています。菜緒様もここでよろしいでしょうか」
「はい」
「墓石は後日設置しましょう」
「いえ、結構です」
私は装甲車へと戻り、斜面の岩を狙う。
「サクラ様。本当にヤルんですか?」
「やる。照準は任せる」
「了解」
AIのアテナが出力を絞ってビーム砲を撃った。その着弾点にはしっかり菜緒と刻まれていた。
翌日、私はマリネリスから離れた。
アンドロイドに興味があるという少女、球磨を連れて。
球磨はアンドロイドの制作や修理をしたいと強く希望した。教主様にも球磨の希望を叶えて欲しいと頼まれた。ここマリネリスは人口が極端に少なく、彼女を育てるだけの収入を得られない。つまり、都市へ引っ越すしか手段がなかったのだ。
「サクラお姉ちゃん。私が付いて行っていいの?」
「いいよ」
「本当に? やったー!」
無邪気にはしゃいでいる姿は本当に可愛い。
私はこれから、人間と寸分違わないアンドロイドを制作していくだろう。それは人の心を持つ人そのもの、いや、人間以上に人らしい心を持つアンドロイドだ。
高望みなのはわかっている。
しかし、私は理想を実現したい。
私の愛した唯一の存在。
菜緒の面影をこの世界に残したいのだから。
風雪の中のぬくもり 暗黒星雲 @darknebula
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