第7話 不思議な国 日本

 それにしても未だに、来日したときのことを思い出すと、私たちにとっても、他の外国人にとっても、日本とは、不思議な国でした。つい六十年前の明治維新までは、そのような国があることを殆どの人が知りませんでしたが、今までの生活スタイルを捨て西洋化に邁進し、ついには、あの大国ロシアをも打ち破ったのです。

 私が日本に来て驚いたのは、西洋文化と日本のそれとが混じり合っていることでした。特に日本の首都である東京は、アジアのどこにもないほどの西洋化された大都市です。

 国中に蒸気機関車が走り、大きな港には、次々に大型船が着岸していました。人々は、洋服を着て靴を履き、電車で通勤し、職場で電話を使って取引をするのは、西欧と変わりはありません。

 しかし、一歩、自宅に戻ると、玄関で靴を脱ぎ、着物を着た妻に迎えられます。しかも、その家は紙と木で作られており、石造りの家を見慣れた私からすると奇妙に見えました。

 人々は、挨拶をするとき背をかがめ、座敷では、膝を折って座り、食事は箸を使います。仕事や勉強では、鉛筆やペンを使うかと思えば、手紙を書くときは、毛筆で字を書いていました。

 日本人は、開国と同時に、従来使用していた太陰暦を捨て西洋の暦を採用しましたが、人々の生活、特に農業は古い暦に従って行われています。

 医学は、中国の医術が主でしたが、明治以降は、西洋の医術を取り入れています。しかし、未だに、民間では、漢方薬、灸や按摩が信頼されているようです。

 昭和九年、日本は国際連盟を脱退しました。これがどのような意味を持つのか。私たちの日本での布教に何か影響をもたらすのか、あるいはそれ以上のことが起きるのか、予断はできませんでした。

 私たちは、第一次世界大戦のような不幸な出来事が起きるのを望みませんでした。紛争が起きても、話し合いで解決が図られ、世界が平穏でありますことを祈っていました。

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