第3話 修道院の建築

 そうして、福島に来て、三年が経過した頃、信者も順調に増えて、修道院を建造しようという声が上がりました。日本人の信者からの寄付もありましたが、大部分は、カナダの本部からの資金援助により、白亜の修道院が完成しました。

 この木造の建物は、チェコ系建築家ヤン・ヨゼフ・スワガーの設計によるもので、建築資材はカナダから船で運ばれてきました。建築に当たったのは、日本の大工と呼ばれる人たちでした。

 建築にあたって心配をしていたのは、カナダの本部のほうでした。いくら設計者の指導のもとでも、大規模な西洋建築それも修道院が建造できるのかという疑問は当然のことです。

 しかし、日本には、東京を始めとして大都会があり、大きな教会や修道院も珍しくはありませんでしたし、考えてみれば、日本では、四百年もの昔からイエズス会の教会を作っていた歴史がありました。

 それに、既に日本の大きな都市には、教会があり、その建築に携わったことがある大工も多くいました。

 特に、大工の棟梁と呼ばれる人たちは、手先が器用で、設計図は読めなくても、ラフなデッサンを示すと、すぐにその構造を理解することができました。

 そうして、二年後、無事、修道院は完成しました。竣工式には、福島市長を始めとして錚々たる顔ぶれが集まりましたが、翌日の地元の新聞に、何故か「市長も今日は『清教徒』」という記事が掲載されました。

 クリスチャンを除いた一般の日本人には、カトリックもプロテスタントの別もなく、単なる誤解であったことが分かるエピソードです。

 その後、この修道院は、伝道の拠点となっただけでなく、あの視覚と聴覚の重複障害者であるヘレン・ケラーが来日し福島県に立ち寄った際の宿泊場所にもなりました。

 このように、福島の修道院には、とても一言では言い表せない思い出がありますが、最近悲しい出来事が起きました。

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