蜂蜜ちゃん

その後も、メルは何度も病室に来てくれた。ニコニコして、いつもよりべったりしている。

 まるで、付き合ったばかりの頃のようだった。

 

 それはとても俺の役得なのだが……俺はずっと気になっていたことがある。


 あの顔のいい野郎とはどうなったんだ?俺が怪我したから、同情してくれてるのか?



 もやもやしながらも、体調が回復し、とうとう女帝ことアリシア氏に謁見することになった。

 この町は、特別措置として政治的なことにも彼女に全権が委任されているので、ならずものたちの裁きも行ってくれた。


 今日はその報告と、今後のことについて話し合うために、メルと共にアリシア氏に呼ばれたのだ。


全ての報告が終わり、それでは……となったところで、アリシア氏が、ふと思い出したように言った。


 「して、そなた達の結婚はいつじゃ?」


 「え、結婚……」


 「わわ、アリシア様、その話はまだ……!!」


 ふむ?と彼女は片眉を上げた。その動作すら優美だ。


 「しかし、番であろう?何をしておるのじゃ?」


 「えっ?」


 「ん?だってそなた、蜂蜜ハニーと呼ばれていたそうではないか、衆目の中で」


 「えっ??」


 そこで、俺はとんでもない事実を知る。

 

 蜜蜂獣人は「唯一無二の伴侶」である番を持ち、それは会って一目でわかるらしい。

 番は一生に一度しか出会わず、出会った後、長期的に離れていると体調を崩す。

 そして、離れるほどに番への執着が増し、暴走してしまうこともあるのだとか。


 そして、蜜蜂獣人の最大の特徴は

 「番のことを、蜂蜜ハニーと呼ぶ」

 ことだそうだ。

 

 あれはふざけていたのではなかったのだ。


 とんでもない事実が判明し、混乱と恥ずかしさから真っ赤になった俺とメルはなんとか謁見の間を出た。

 

 

 そしてお互いの本音を話したところ、メルは種族の違う俺になかなか打ち明けられず、忙しさから会えなくなり体調悪化。心配をかけたくないのと、自分の暴走を恐れてわざと避けていたらしい。


「じゃあ、あの噴水のところに居た美形な男の蜜蜂獣人は」


「え?ああ、あれはカイル様。アリシア様の伴侶よ?私が番から離れてるのを心配してくれて」


「えええ、あの女帝の!!???」


 というやりとりもあったが、一件落着。



 


 その後、メルと商品開発を始めたり、それを持って砂漠の向こうのザファールに挨拶に行って驚かれるやら茶化されるやら、そして結婚式の招待状を渡せたりしたのも、また別の話。

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蜜蜂獣人の彼女と商人の俺 夢守紗月 @satsuki_yumemori

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