Ver6.10 魂の有所

 ロバートのアタッシュケースの中に収められた少女のオートマトン。

 その少女の名は――ルナ・チャン

 

 ロバートの娘だという。


「うそ……なんで……」


 アイリスの動揺は尋常ではなかった。

 オートマトンを所持していることは分かっていても、その正体が兄の娘だとは思わなかったのだろう。

 (普通思わない)


 ジゥは、アイリスを落ち着かせていた。


「アイリスさん、落ち着いて。息が上がっています」

「でも……だって……」

「大丈夫です。我々はこの自体を把握していますので、安心して下さい」

「……え?」


 アイリスはジゥの言葉に驚いた。

 ちなみに、私も驚いた。


 ――何も知らないんですけど


 直ぐに察した。

 いつものジゥの嘘である。

 相手を落ち着かせるために、しれっと言ったのだ。


「ですが、このオートマトンにお名前があったなんて知りませんでした。ルナ……というのは?」


 嘘を繕うためにしれっと質問。

 怖い女である。


 アイリスは、落ち着きを取り戻し、ジゥの質問に答えた。


「ルナちゃんは……兄の娘でした」

「でした……ということは?」

「はい……お察しの通り、亡くなってしまったんです。5年前に……」

「……お悔やみを申し上げます]


 本当に。


「ショックを受けていたのは知っていましたが、立ち直ったものだと……まさか、こんなものを作っていたなんて……」


 アイリスは落ち着いたものの、動転しているようだった。

 まぁ確かに。

 娘を失って立ち直ったと思ったら、娘を作っていた――


 なんて、ちょっとオカルト――というか、怖い話だもんなぁ。

 

 そんなアイリスをジゥは、優しい声でなだめていた。


「そんなに悲観することではありませんよ、アイリスさん」

「え……?」

「故人を懐かしむあまり、物や人を生き写しだと疑わないことは、我々の世界では珍しいことではありません」


 まぁね。

 人形とか、形見とかに投影することはよくある。

 身内を故人だと思い込むなんてことも、たまーに聞くことだ。

 それだけ、人にとって『死』とは辛いものなのだ。


「ロバートさんも、ルナちゃんを失った辛さを紛らわせるために作ったものかもしれません」


 普通に考えてそうだろうな。

 ただ、今回はそれが行き過ぎてしまって、ついにはあの『霊界交信』のパーティーに参加したのだろう。

 

 そして、私達が求めている答えをこのオートマトンは持っている。


 多分。


「少し、このオートマトンと会話をしてみます」

「……え?」


 アイリスは驚いた顔をした。

 単語だけ聞いたらそういう反応になるよね。

 

「ロバートさんがこのオートマトンに対して並々ならぬ思い入れがあるのならば、それを読み取ることができるかもしれません」

「我々にはそれができます」


 嘘は言ってない。

 でも、もう一つ目的があることは隠している。

 ジゥらしい姑息な話術である。


 アイリスは少し悩んだ末に、了承した。


「分かりました……ですが、手早くお願いします。兄が戻ってくるかもしれないので……」

「ええ、お任せ下さい」


 貼って付けたような笑顔でジゥは返事をした。


 アイリスが部屋を出ていくと、いつものジゥに戻った。


「では、さっさと済ませますよ」

「やるのは私なんだけど」

「当たり前じゃないですか?」


 ――話が噛み合わねー!!


 いいやもう、さっさとやろう。

 オートマトンに手をかざし、精神を集中させる。

 

 死んだ娘を投影し、その娘と霊界交信で会話をする――


 これだけご執心ならば、流石のオートマトンにも魂と精神が宿る。

 エラーコード九十九の片鱗くらい確認できるはずだ。


 集中――


 集中――


 させているのだが――


「……どうしましたか、クジ?」

「……ない」

「……はい?」

「何も宿ってない……」




―――Ver6.10 魂の有所 終

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る