Ver6.11 得体の知れないなにか

 目論見が外れたことに私とジゥは驚いた。

 ただ、問題はそれだけでは終わらない。


「何も宿ってないって……それはつまり……」

「このオートマトンには、思いも宿っていなければ、付喪神も宿ってない――ただのオートマトンだ」

「つまり……ロバートが投影し、話していた存在はオートマトンそのものではないということですか?」

「ああ……オートマトンが何かの力によって、ロバートと話していたわけではない」

「それじゃ……ロバートが話していた相手は――誰なんですか……?」


 背中がゾクリとした。


 霊的でもない、超技術でもない――


 それはつまり、ロバートは『得体の知れないなにか』と話していたことになる。


 その正体は――

 あそこにしかない――


 私は咄嗟にアイリス・チャンの部屋を出た。

 走って。


「クジ‼️ どこに行くんですか‼️」


 後ろからジゥの声が聞こえたが、止まることはなかった。


 向かう先は――あの会場だ。



 ――――――――――

 ――――――――

 ――――――

 ――――

 ――


 会場についた。

 あの『霊界交信』を行っている会場だ。


 今日も何も変わらず開いているようだ。


「どうぞ」


 会場に入ると、また『交信用』のデータチップを渡された。


  前は必要性を感じなかったが、今は違う。


 ――こいつが『霊界交信』の鍵なのだ


「あーすみません」


 近くにいるスタッフを呼び止めた。


「どうかしましたか?」

「これを使いたいんですが」


 と、『交信用』のデータチップを見せる。

 スタッフは、不思議そうな顔をしている。


「ええ、どうぞ」

「あーいや、そうじゃなくて。私、オートマトン手術していないので……」

「ああ、ヘッドマウントディスプレイですね」

「そう、それ。貸してもらえますか?」

「ええ、どうぞ」


 スタッフからヘッドマウントディスプレイを受け取り――


「ありがとうございます」


 近場の開いている席に座る。

 そして、渡されたヘッドマウントディスプレイを見る。


 これで『霊界交信』ができるというのか……?

 何か細工を施しているようには見えないけど――


 そうなると、ますますこの『交信用』のデータチップが鍵を握ることになる。


 ――やってみるしか無いか


 決心し、データチップを差し込む。


 そして、ヘッドマウントディスプレイを装着――


 起動――


 ――

 ――

 ――

 ――

 ――


 ――真っ暗なんだけど

 ――起動したのかこれ?


 ――いや

 ――真っ暗だけど、何かが見える

 ――光の粒……?

 ――まさか、星?


 ――じゃぁ……ここは……?


 嫌な予感が頭をよぎった。

 だが、その予感は直ぐに消えさってしまった。


 答えが分かったからではない。



 『クジ』


 ――呼ばれている


 『クジ』


 ――誰かに

 ――呼ばれている


 ――この声

 

  ――知っている

 ――知ってるけど

 ――ありえない


 『クジ』


 「……パパ?」





 ―――Ver6.11 得体の知れないなにか

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る