Ver6.9 ロバートが願った夢

 ロイヤル区域のど真ん中。

 高層ビルが立ち並ぶ。

 その中で一番高いビルの入口に、私とジゥは立っていた。


「なんでまぁ、金持ち様は高いところが好きなんでしょうねぇ……」


 ビルを見上げてポツリと言った。

 毎度思う疑問である。

 だいたい悪いやつも高いところにいる。


「見下ろす感覚が味わえるのは、高いところだけですからね」

「楽しいのかそれ?」

「楽しいからみんなやるんでしょう」


 ――そうですか


 そんなやり取りをしていると、ジゥのスマートフォンに連絡が入った。


「……入れるようになったみたいです」

「んじゃ、さっさと入ろうや」

「中では大人しくしていてくださいね」

「へいへい」


 そんなやり取りをしながら、ビルの中へと入っていった。


 向かう先は、アイリス・チャンの部屋――

 つまりは、ロバート・チャンの部屋に向かっているのだ。


「どういう結果になると思う?」


 エレベーターに乗りながら、ジゥに問うた。


 それは、今から調べるロバートの『オートマトン』について――

 そして、『チップ』が起こしている機能について――


「『ロバートのオートマトン』から声が聞ければ簡単に解決すると思います」

「……まぁ、そうなるよな」


 物には魂が宿る。

 それは、思いが強ければよりハッキリと意識を持つ。


 本当に、霊界と交信をしているならば、ロバートが持ち込んでいるオートマトンから、何か読み取れすはずだ。


 生者と死者が会話をしているのだから、その痕跡が存在するはずだ。


 それを読み取ることができるのが、我々巫女なのだから――


 だが――


「もし、読み取れなかった場合は……面倒ですね」


 そう、それはつまり――


「……あんまり考えないようにするわ」

「そうして下さい」


 エレベーターが止まり、ドアが開いた。

 眼の前には玄関が見える。

 流石金持ち、玄関直結ですか。


 玄関が開くと、アイリスが迎え入れてくれた。


「お待ちしていました」

「今日はすみません、突然の連絡でしたのに」

「いえ、依頼したのはこちらなので、協力できることは何でもしたいんです」


 部屋の中へ入ると、そこはなんとも高級な装いだった。

 これがペントハウスというやつね。


「クジ」

「あ?」

「顔、歪んでます」


 あ、やばい。

 こういう金持ちですみたいな所にいると、内心が顔に出てしまう。

 平常心、平常心。


「それで、アイリスさん。お伝えしていたものは……」

「はい、こちらに……」


 そう言って、アイリスはアタッシュケースをテーブルに置いた。

 それは、あの会場で見たオートマトンがすっぽり入りそうなサイズ――

 小さな女の子が収まりそうなサイズだった。


「では、開けますね」

「えっ?」


 アイリスは驚いた顔をした。

 これはまさか――

 話を通していない……!!


「あ、開けるんですか?」

「はい、開けます。これも依頼のためです」

「で、ですが……」


 アイリスは迷っている。

 そりゃそうだ。

 依頼のためとはいえ、兄の私物を勝手に覗くのは気が引ける。

 当然だ。


「我々は、このアタッシュケースの中に、アイリスさんが依頼した答えがあると考えています」

「…………」

「もし、中身を見たくないのであれば、依頼はキャンセルということで問題ありませんよ」


 わぁ、意地悪な言い方だ。

 このタイミングでそれを言ったら、答えは一つじゃないか。


 アイリスは迷っていたが、意を決した様子で言った。


「開けて下さい……」

「では、開けます」


 ジゥはスマートフォンをアタッシュケースに近づけた。

 少し時間が経ち、鍵が解除されたらしく音がした。


 多分、事前にクソンを使って解除用プログラムを作らせたのだろう。


 そして、ジゥはゆっくりとアタッシュケースを開けた。


 中には――やはり、私が会場で見たオートマトンが収められていた。


 異常に精巧に作られた少女のオートマトン。

 関節の結合部から内部の機械が見えていなければ、本当に少女と見間違うほどに精巧。

 息を呑むほど、人間そっくりだ。


 アイリスは驚いていた。

 そりゃ、アタッシュケースの中身が少女のオートマトンなら誰でも驚く。

 しかもそれが、兄の私物ならば。


 だが、その驚き方は少し違ったようだった。


「……これ……ルナちゃんです」

「……誰ですかそれは?」

「兄の……娘です」




 ―――Ver6.9 ロバートが願った夢 終

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