Ver6.7 無顔・フェイスマン

 スーツを纏い、佇むその男。

 顔には全面ディスプレイのヘルメット。

 故に人々は言う。


 『無顔・フェイスマン』


 ロイヤル区域に住み、著名な人々と多く繋がりがある。

 しかし、そのプライベートは一切の不明。

 仕事すら何をしているか分からない。

 ロイヤル区域の七不思議と言える人物だ。


 だが、それはロイヤル区域の住人同士の話。


 グランド出身の私にはさっぱり分からない。

 しかし、それよりも……気になることを言ったなこいつ。


「……トクイチを知ってるのか?」

「ああ、彼は僕の友達でね。よくお話をするんだ」

「あんたもオートマトンなのか?」

「どうだろう? 君にはどう見える?」


 どう見えるって……。


 そう言われて霊視を行ってみるが――


 何も見えない――


 そんなこと、あり得ないはずなのに――


「はは、答えは保留にしておこうか」


 こちらの戸惑いを見透かすようにフェイスマンはディスプレイに口を表示し、笑ってみせた。

 

 何ともムカつく演出だな。

 トクイチと仲がいいわけだ。


「……このパーティーはお前が主催者なのか?」

「ああ、そうだよ」

「じゃぁ、私を招待したのはお前か……なるほどね」

「それは違う」

「……は?」

「私も驚いてね。だから声をかけたんだ」

「じゃぁ誰が……」

「はは、答えは知ってると思うけどね」


 フェイスマンは、またディスプレイに口を表示し、笑ってみせた。


 そう言われて浮かんだのはあの女の顔だった――


 ――マヨイガ


 あいつは、何を考えてやがるんだ……?


「まぁ楽しんで行ってくれたまえ」


 そう言ってフェイスマンは会場の奥へと消えていった。


 ムカつく。

 フェイスマンにもムカつくが、マヨイガにもムカつく。

 人のことを手玉に取ったつもりで見下しやがって。


 頭に来た。

 フェイスマンの企みも、マヨイガの企みも全部ぶっ壊してやる。


 そう決意し、会場を後にした。


 渡されたチップを強く握りしめて――


 ――――――――――

 ――――――――

 ――――――

 ――――

 ――


 外でジゥと合流すると、早速チップをクソンに回す。

 解析の結果が出るまで、私とジゥは会場にいた人々の経歴を漁った。


 あまり成果は期待していなかった。

 こういう集まりの時は往々にして経歴をバラつかせて、何をしているのかを隠すのが常套句だからだ。


 だが、意外なことにあの会場にいた人間は、全員共通点が存在していた。


「……全員、親しい身内を失っている」

「クジの予想通り、霊界交信の可能性が高いですね」

 


 

 ――― Ver6.7 無顔・フェイスマン 終

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