Ver6.6 黄泉からの招待状

 ガードマンからスタッフへ。

 スタッフからアテンドに案内役が変わった。


「では、こちらへ」


 アテンドの後ろを歩きながら、率直に聞く。


「あの……案内状とか特に持ってないんですけど」

「それは承知しています」

「それじゃ、なんで中に入れてくれたんですか?」


 ラッキーとは思っていた。

 でも、自分が預かり知らぬところで何かが起きているのはむず痒い。


「何故と言われると困りますね……そうしろと事前に言われていたので、としか……」


 なるほど。

 あんまり問い詰めても意味なさそうだ。


「こちらです」


 アテンドは大きな扉を開けた。

 そして、私にチップを渡してきた。

 指先程の大きさのインストール用チップだ。


「……これは?」


 ただ何に使うのかを聞いたつもりだった。

 アテンドは目をまん丸くし、少し笑った。


「いつものです」


 ――いつものってなんだよ!!


 だが、ここで聞き返したら完全に怪しまれるので知ってるふりをすることにした。


「……あ、ああーアレね。はいはい、あのー……」

「交信用です」

「そうそう、それ」


 ――なんだ、交信用って。


「では、ごゆっくりお楽しみください」


 ――とにかく。


 中へと入った。



 そこは、薄暗い部屋。

 明かりが少なく、多くの人がいるのに、あまり会話がない部屋だった。



 私は一瞬アレの会場かと思った。

 (ほら、ロイヤルの連中がたまにやってるって聞く人身売買)


 だが、それにしては落ち着いた様子だったので、多分違うのだろう。


 会場を歩き回る。



 少し歩いているだけで、彼らの行動パターンは分かった。



 まず、チップを受け取る。

 それを体にインストールする。

 すると、楽しげに喋りだす。

 会話の内容は「元気にしていた?」「いつも一緒だよ」「貴方に会えて嬉しい」


 その対面に置かれているのは――


 動かないオートマトン。

 

 多分、人格プログラムがアンイストールされてるのだろう。


 ただの機械に向かって、彼らは会話をしているのだ。



 電子ドラッグ……?

 集団幻覚……?



 一応霊視をしてみるが、先ほど受け取ったチップとオートマトンからはエラーコード九十九の気配はない。



 うーん……何が目的の会場だろうか。



 そんな事を考えながら、あたりを見渡していると――


 ――ターゲットの、ロバートを見つけた。


 奥の部屋で誰かと喋っているようだ。

 

 少し近づき、覗いて見る。


 やはり他の連中と同じくオートマトンに話しかけていた。


 他と違うのは、ロバートが話しかけているオートマトンだけ、とても精巧であること――



 それはまるで、小さな女の子のような容姿をしていた。



 私は、アイリスの言っていた言葉を思い出した。


 『オートマトンを持ち込んでいるんです』


 ――つまり、あれはロバートの私物

 ――まるで誰かを模したようなオートマトン


 そして、もう一つの言葉を思い出した。


 アテンドが言っていた言葉。


 『交信用です』


 ――そうか

 ――ここで行われているのは



 ――『霊界交信』!!




 答えにたどり着いた瞬間、私の体に悪寒が走った。

 そして、あの会話が頭の中に蘇った。



『ロイヤル区域のとある場所でパーティが開かれてるみたいなの』

『そこの調査をお願いしたいの』

『でも、そのパーティの内容が霊的なものだったら……どうする?』



 そう――マヨイガが言っていた『お願い』とは


 ――ここのことだったのだ



『私のお願いを聞いてくれた、何でも質問に答えてあげるわ』



 あの声が頭の中で響き渡る。

 あのクソ女の声が――



 ――どこから仕組まれていた?

 ――ジゥもグルなのか?

 ――いや違う

 ――だってジゥは



 思考がまとまらない。

 呼吸も荒くなっている。

 

 今にも倒れそうになっていると、声をかけられた。


「大丈夫かい、クジ?」


 振り返った。

 そこに居たのは――


「……誰だ、お前」

「はじめまして――私はフェイスマン。トクイチが世話になったね」





 ――― Ver6.6 黄泉からの招待状 終

 

 

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