Ver6.5 暇な調査

調査開始1日目。


夕方。


私はもう帰りたくなっていた。


ロバート・チャンの尾行は想像以上に暇だった。

ひとつひとつの滞在時間がクソ長いせいで、すごく暇。


そして、何よりロイヤル地区。

ロバートが移動する場所が全てロイヤル地区。

私はロイヤル地区があまり好きじゃない。

(居づらいって意味でね)


なので、こんな場所に長期間滞在しながら尾行するのはとてつもなく暇で、とてつもなく苦痛なのだ。


――って、やるって言ったの私だったな。


深い溜め息が出てきた。

なんとも、自分の運命はいつも廻りが悪い。


などと考えていると、ロバートがビルから出てきて、車に乗り込んだ。

再び、移動するようだ。


行き先は――


「どうやら次が例の場所みたいですね」


耳につけているイヤホンからジゥの声が聞こえてきた。


「へいへい」

「真面目にやってくださいね?」

「真面目にやってるだろ?」

「真面目に な?」


 あ、怒ってるこれ。


「はい」



ともかく――



どうやら、暇な状況からはやっと抜け出せるようだ。

やっと仕事らしくなってきたな。







意気込んで着いた先は、ロイヤル地区ではどこにでもありそうなビルだった。


ただデカくて、ただ光ってるだけのバカ見てーなビル。


ロバートが既にこのビルに入っているのは確認済み。


だが、問題はセキュリティの厳しさだった。


入口にはオートマトンやガードマンが多数。

さらに専用のカードがあるらしく、入るためには提示が必要なようだ。


「入れなくねこれ……?」


 ジゥに打開策を求めてみた。


「どうしましょうね」


 ダメだった。


「お前が来れば解決するんじゃねーの? 顔広いじゃん」

「……事前に説明しましたよね。それはできないって」


 すっかり忘れてた。

 ジゥが顔出すとまずいんだった。


「んじゃ積みじゃん」

「うーん……気が進みませんが、非合法な入り方をしますか……」

「……その結果、私が死ぬとかないよね?」

「…………」

「なんか言え!」


 ダメだ。

 こいつに任せてたら自分が殺される。

 なんとか自力で打開しねーと。


 必死になっていたのでその時は気づかなかったが、ビルの前でウロウロしてたらそりゃ怪しまれるわけで。

 

 しばらくすると、ガードマンが近づいてきた。


 正直終わったと思った。


 だが――


「霊山クジさんですね?」

「……え?」


 突然知らない人からフルネームを当てられたらこういう反応になる。


「お待ちしておりました。どうぞ中へ」





―――Ver6.5 暇な調査 終

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