Ver6.3 末路はいつも同じ

巫巫道堂に着くと、早速依頼の話になった。


「兄の様子がおかしいんです」


眼の前に座る女性は、そう話し始めた。

ジゥは話に耳を傾けていた。


一方、私は驚いていた。


依頼内容にではない。

(まだ詳しく話聞いてないし)


依頼主が、アイリス・チャンだったからだ。



「必ず一日の最後に、ある場所に行くんです」

「なるほど」


 ジゥは相槌を打っていた。


 その平然とした様子に信じられないほどの違和感を感じた。

 アイリス・チャンはCES・タロース社の上級役員、ロバート・チャンの妹。

 タロース社はジゥが嫌うオートマトンの製造を一手に引き受けている。

 CES・カンパニーでも序列一位の巨大な企業。

 その企業の専属宣伝モデルをしているのが、アイリス・チャンだ。


 妹だからOKってこと?


 それとも何か企んでるのか……?


「どうやらそこで、何かをしているらしくて……」

「何かというと、内容までは分からないんですね?」


 私がごちゃごちゃと考えているうちに、話は少しずつ進んでいた。


「……はっきりとは分からないですが、何を持ち込んでいるのかは分かります」

「というと?」

「……オートマトンを持ち込んでいるんです」

「何か特別な?」

「だと思います」

「商談とかじゃね?」


 やっと会話に入り込めた。


「だといいんですが、明らかに様子がおかしくて……」

「その様子がおかしいというのは、どのような感じですか?」


 ジゥの問いかけに、アイリスは少し悩んだ後につぶやいた。

「……多幸感、ですかね」


 多幸感、非常に強い幸福感と、満足感のこと。

 いい意味ではあるが、多すぎれば毒になるの典型的言葉である。


「尿検査でもしてもらったらどうだ?」


 軽いジョークを言ってみた。

 誰か笑ってくれないかなって。


 だが、誰一人笑うことはなかった。

 ごめんなさい。


「アイリスさん」


 ジゥが前のめりになり、アイリスに詰め寄った。


「この案件は、引き受けることが可能です」

「お願いしたいです」

「ですが」

「はい」

「先にお伺いしておきたいことがあります」

「なんでしょうか……?」


 ジゥのその姿勢に流石のアイリスも少し身構えていた。


「例えどのような結果になっても、受け入れる覚悟はありますか?」


 私は隣で聞いていて、この案件の末路を少しばかり察した。




―――Ver6.3 末路はいつも同じ 終

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