Ver5.4 調査。そして、虚をつかれる

「あの楽観バカどこ行った……」


 クソンを探しながら、オフィスビルを上に下に歩いていた。

 なんでこんなことしねーといけねーのか。

 イライラ爆発の独り言が止まらない。


「つーかよぉ、授業参観じゃねーんだからついてくんなよ、どっちもよぉー」


 などと悪態をつくが、その理由を作ったのは自分である。

 

 …………


 止めよう、独り言。

 自分が惨めになるだけだわ。


 堪らず、深い溜め息が込み上げた。


 と――



「緑の炎」



 思わず振り返る。

 あまりにも聞き慣れない言葉だったからだ。

 そこにはすれ違った従業員らしき男の姿。

 何食わぬ顔でそのまま廊下の奥へと消えていった。


 一体なんだ……?


 ふと辺りを見渡す。

 どうやらいつの間にか、どこぞの事業部のフロアに来ていたようだ。

 中では従業員たちが一心不乱に何かを打ち込んでいる。


 現代の狂気。そう言えるかもしれない。


 ただ私は、その様子に多少の違和感を覚えた。


 一心不乱というか……これは……


 思考を巡らしていると、嫌な空気が流れ込んできた。

 

 廊下の奥からだ。


 急いで奥へと向かう。


 曲がり角に差し掛かると、ソレは現れた。


「幽霊……?」


 少し驚いたが、瞬時に理解する。

 ああ、なるほど。

 これが管理人が言っていた幽霊のことか。


 だとしたら、本来の仕事だ。

 素早く終わらせよう。


 九字を切ろうと構えると、幽霊は後退り、更に奥の暗がりへと消えていった。


 なんだ……?


 誘ってる……?


 警戒しながら後を追う。

 奥へ行き着くと、辺りは真っ暗。


 幽霊の姿は――


 どこにも見当たらない。

 どういうことだ?


 更に一歩踏み出すと――

 何かが足に当たった。


 何だ?


 目が慣れ始める。


 そこにいたのは――


 さっきすれ違った男だった。

  

「な……」


 突然のことに困惑。


 何故。

 何が起きた?

 この一瞬で?


 狼狽え思考が止まった。


「クジ!! 後ろ!!」


 クソンの声だと理解した。

 そして、咄嗟に振り返った。




―――Ver5.4 調査。そして、虚をつかれる 終

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