Ver5.5 幽霊を使役する機械

「クジ!! 後ろ!!」



クソンのその声と同時に後ろを振り向く。


そこにいたのは――


巨大な四足のオートマトン――


赤く光るモノアイが、ギロリとこちらを睨んだ。

そして、私を踏み潰そうと足を上げた。


避けろ。


クソ。

体がついてこない。


潰される――


悟った瞬間、なにか別の力に弾き飛ばされた。

壁に打ち付けられ、その力が何かを理解した。


クソンの放った矢だった。


さっきまで自分がいた場所をふと見る。

しっかりと凹んでいた。

(コンクリートだぞ……?)


マジサンキューなクソン。


「って、まだか……」


巨大な四足のオートマトンはこちらをギロリと再び睨んだ。


来るか――


九字を切る構え取ると、そのオートマトンはゆっくりと――


消えた。


闇に紛れたわけでもなく。

風景に避けこむように、完全に消えたのだ。


「は?」


辺りを見てもなにも見つけることができない。

あるのは先程見つけた死体だけだった。


「……どうなってやがる」

「……光学迷彩」


クソンがポツリと言った。


「軍用オートマトンかよ……どうなってやがる」

「多分、ここの会社の奴が……」

「逃げ出して人を殺してるっていうのか?」


だとしたら、この案件は自分たちには手に負えねーぞ?


「いや、違うよ。あれが、私たちが探してるやつ」

「……まさか、あれが今回の原因?」

「少なくとも、1つはアレが原因だよ。ほら見て」


と、クソンは死体に近づいた。

腹に大きな穴が空いたその死体。

あの軍用オートマトンに襲われたらこうなるということか。

だが、これだけじゃ何も――


うん?


待て、こいつ――


「こいつ――魂がねぇぞ……」

「そう、魂が消えてるの」


肉体の死と精神の死は別である。

例え、身体が死んだとしても、魂が生きていれば、それが霊となり、怨霊となる。

それが、我々の世界の常識なのだ。


だが、魂が無いということは、完全なる精神の死――

それか、もしくは――


「この人の魂が、さっきクジが見た幽霊になったんだと思う」

「……そういや、さっきいた幽霊は?」


 ふと思い出した。

 それに導かれるようにここに来て、あの巨大なオートマトンに襲われたことを。

 だが、辺りを見渡してもその幽霊は見当たらない。

 

 これもおかしい。

 突然肉体が死んだ場合、精神がそれを理解するまで暫く時間がかかる。

 つまりは、魂が死体の近くに浮遊していなければおかしい。

 

 特殊な事例以外では。


「多分、あのオートマトンに付いて行ったんだと思う」

「そんなことあり得るのか?」

「ありえる」


クソンは即答した。

そして、この時に気づいた。

陽気で楽観主義ないつものクソンとは、今は何かが違うことに。


「……何か知ってるみてぇだな」

「さっきクジが見たっていう幽霊は、倀鬼」

「倀鬼……?」


聞き馴染みのない名前だった。


クソンは続けた。


「そして、多分この幽霊騒動、ちょっと異常なことが起きていると思う」


その言葉を聞いて、私はふとジゥの言葉を思い出した。


――果たして3つ全てが異なる怪異なのでしょうか。




―――Ver5.5 幽霊を使役する機械 終

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