Ver4.10 無償の救済などはない

広場は混乱に陥いり、暗闇からは悲鳴が飛び交っていた。


完全にパニックだ。


私は咄嗟に九字を切り、目の前にいるソレに向かって術を飛ば―――


 そうとすると、突然広場に明かりが戻った。

 辺りを見渡す。

 多くの人々が倒れこみ、痛みを訴えるように、呻いている。

 目の前ににはソレは、両手を広げおどけて見せた。


「はは、冗談だ冗談」

「嘘つけ。魂を降ろしただろお前」

「ほう、視えていたのか」

「これをするためにヘヴンズ・ゲートをバラ撒いていたのか?」

「そうだ。あのチップを作ったのは私ではないが、都合よく繋がっていたからな、使わせてもらったのだ」

「繋がっていたってのは……ボイジャー1号にか」

「そうだな。というよりも、アレはボイジャー1号と言うのだな」


 うんうんとわざとらしくうなずいて見せるオートマトンのソレ。

 ふざけやがって。


「……結局テメーはなんのためにこんな事をした。魂を降ろして、憑依させて、何をしたいお前は」


 埒が明かないと悟り、核心を直接聞くことにした。

 返答次第では―――殺るしかない。


 ソレは表情すら読めないモノアイをこちらに向け、ぼそりと話した。



「助けてあげたい。そう思っただけだ」



 予想だにしない回答だった。


「己の魂を探すオートマトン。己の存在意義を問う人間。彼らに1つの答えを授けてやりたい。そして、これからの人生を意味あるものにしてやりたい。そう思っただけだ」


 嘘だ。

 絶対に嘘だ。

 だが、どうしてだろうか。

 そうなのかもしれないとも思えてしまう。

 いや、嘘だ。

 しっかりしろ私!!!


 なぜだろうか、こいつの言葉を聞いていると、頭がおかしくなりそうだ。

 

「では、またどこかで会おう」


 ソレは横を通り過ぎ、広場を後にした。


「待て!」


 止まりかけた思考をギリギリで繋ぎ止め、なんとか呼び止める選択ができた。

 

「まだ何か?」

「……名前を教えろ」


 せめてもの抵抗だった。


「ふむ……招かれただけだからな。本来の名を告げるのも憚れる……」


 少し悩んだ後に、ソレは指を1本立てた。


「トクイチ。そう呼んでくれ」


 はぁ?

 ふざけた名前過ぎて堪らず顔が歪んだ。


「はは、私がこちらに来て読んだ知識の中で、一番尊敬する人物の名前だ」


 トクイチって……あの徳一のことか?


「では、また会おうクジ」


 そう言って、トクイチは再び足を進めた。 


「ああ、それと―――」


 と言って、トクイチがこちらを振り返った。


「君は、エラーコード九十九の意味について、考えたことはあるかい?」

「……どういうことだよそれ」

「はは、少し考えたほうがいいと思うぞ。もしかしたら、君たちは騙されているだけかもしれないからな」


 トクイチは群衆の中へと消えていった。

 サイレンが鳴り響き、病院へ担ぎ込まれる人々の群れの中へ。


今回の出来事には、まだ答えを得ていないものが多すぎる。


彼の正体。

ボイジャー1号の謎。

彼の本当の目的。


だがそれは、いずれ答えが分かると、思った。

それも、かなり近い時期に。



――― Ver4.10 無償の救済などはない 終


―――Ver4 ヘヴンズ・ゲートをくぐれない  完




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