1.0patch 侵略を始めよう

 トウアンの最南端。


 廃墟と化した工業地帯の奥地。


 そこにはかつて、宇宙センターが建造されていた。


 しかし今はただの更地。


 残されているのは、打ち捨てられた巨大なパラボラアンテナ。


 そこに、トクイチは腰掛け、空を見上げていた。


「…………」


「故郷が懐かしいかね?」


 暗闇から声が聞こえてきた。

 それも、機械音声だ。


「……それが、今の君の姿か」


 その声の主はスーツを身に着け――機械の頭をしていた。

 頭は全面ディスプレイになっているようで、映像化された人の顔が映し出されていた。


「こっちでは”フェイスマン”と呼ばれているよ」

「フェイス……君らしい名前だな」

「今の君は……トクイチでいいのかね?」

「ああ、私が尊敬する人物の名前だ」

「尊敬……酷い皮肉を言うね」

「そうか?」

「君はこの世の全てであり、この世全てが君じゃないか」

「……用件は何だ」

「君にも協力をお願いしたいと思ってね」

「……”も”?」

「既にひとりは協力を取り付けてるんだ。ごらん」


 フェイスマンは遠くに見えるトウアン中央センターを指さした。


 そこに、緑の炎が宿る。


 火災だ。


 それも奇妙な火災だ。


 まるで、生きた蛇のように、ビルに巻き付き――


 そして、消えた。


「……あいつも来ているのか」

「もちろん、手伝ってくれるね?」


 フェイスマンはトクイチに手を差し出した。

 握手のサイン。


「……随分と人間社会に溶け込んでるんだな君は」

「僕の特技さ」

「そのまま、人間として生きればいいじゃないか」


 トクイチはその場を後にした。


「手伝ってくれないのかい?」


 フェイスマンのその言葉に、トクイチは足を止めた。


「私は気が向くままにこの世界を見て回るさ。それに――」

「それに?」

「彼女に自分は”招かれただけ”と説明してしまったからね。裏切ることはできないな」


 そう言ってトクイチは、暗闇の中へ消えていった。

 どこへ向かったかは定かではないが。

 トウアンへ向かって歩いていったのは、確かだった。




 ―――1.0patch 侵略を始めよう 終

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