Ver4.9 全にして一、一にして全

 地図が差し記していた場所はトウアンの中心地。

 そこは、グランドゼロと呼ばれる大きな広場。

 人々が思い思いの時間を過ごす、トウアンの中でも比較的場所だ。


 とはいえ。

 時は既に1日が終わり、新たな1日が1時間進んでいる。

 さすがにまともな場所とはいえ、この時間に外に出てるのはゴロツキか家無しか、または薬漬けゾンビの3択だ。

 危険な雰囲気が無いわけではない。

 

 そんな場所を指定してきた奴は果たして誰なのだろうか。


 辺りを見渡した。

 

 そして。


 見つけた。


 クジはグラウンドゼロの真ん中へと足を進めた。

 そこにいたのは、編笠を深く被り座禅をしている僧侶―――


 いや、違う。


 こいつは―――


「リョウゼン・クジ―――だな?」


 僧侶の身なりをしたソレは、ゆっくりと顔をあげた。

 その大きなモノアイでこちらを見つめながら―――


「オートマトン―――かよ」

「驚いたかな?」


 驚いた。

 まさか、全ての犯人がオートマトンだったというのは予想の範疇になかった。


「……お前が私を呼んだのか?」

「そうだ」

「つまり、ジェラルドを殺した犯人」

「そうだ」

「そして、ヘヴンズ・ゲートをバラ撒いている犯人」

「そうだ」


 そのオートマトンは少しも、微動だにしなかった。

 そしてこの僅かなやり取りの間に大きな違和感を覚えた。


 こいつ、本当にオートマトンなのか―――?


「……お前の目的はなんだ」

「単刀直入だな」

「何が目的でこんな事をした」

「目的」

「ああ」

「……君たちが私に目的を聞くのか?」

「は?」

「呼んだのは、君たちだろ?」


 最初はなんのことを言っているのか分からなかった。

 だがすぐに、ジェラルドの言っていた言葉を思い出した。


 ボイジャー1号が―――見ている!!


「お前……まさか……」

「そうだ、君たちが我らを呼んだのだ。あの衛星、そしてレッドLANで」


 身の毛もよだつほどの悪寒が身体走り抜けた。

 まずい。

 こいつは、本当に―――ヤバイ。

 

「故に、目的は持たない―――だったのだが、少し事情が変わった」

「……どういう意味だ?」

「私は存外、この身体が好きでな」


 ソレは自分の身体を、金属フレームでできた身体を触りながら言った。


「はっきり言って、

「……冒涜的?」

「そうだろ? 生命とはこんな金属や回路、プログラムによって生まれるものではない」

「いや、オートマトンは―――」

「そう、オートマトンはそういう生物だ。だから、

「……何が言いたい」

「ただ……まだ足りないのだよ」

「……足りない?」

「正確には、足りているがまだ動いていない、だ」


 ソレは3本の指を突き出した。


 何をする気だ?


 1本指を折った。


 辺りの電飾がチカチカと鳴り出した。


 周りの人々も異変に気づいたようだ。


 もう1本指を折った。


 電気は落ち、完全な闇が生まれた。


 そして、最後の1本を折った。


 慟哭に近い悲鳴がそこら中から聞こえてきた。


「さぁ、生まれ変わる時だ」





――― Ver4.9 全にして一、一にして全 終

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