Ver4.7 ヘヴンズ・ゲート計画

 ヘヴンズ・ゲート計画―――

 聞いたこともない名前だ。


「で、それは何なんだ?」

「その前に、先に聞かせてくれ」


 なんともまぁ面倒くさい男だ。

 モテないだろジェラルド君。


「あんたは、アイズの人間じゃないよな……?」


 アイズとは国際的なインターネット監視組織の通称だ。

 説明が大変なので、今回は割愛する。


「ちげーから早く教えろ」

「分かった、分かったから……」


 ジェラルドは息を整えて喋りだした。

(なんで緊張しるんだ?)


「ヘヴンズ・ゲート計画はCES・カンパニーが極秘裏に行った資源発掘計画だ」

「資源発掘? 鉱脈とか、ガスとかか?」

「違う、旧インターネット資源だ」

「旧インターネット……レッドLANのことか?」

「そうだ」


 レッドLANとは、大昔に崩壊し、放置されたインターネット空間の総称だ。

 私も本やニュースで知っている程度だが、どうも大昔に大量のウィルスを流し込んだ人間がおり、旧インターネットは機能不全に陥ったという。

 そのウィルスから切り離すように作られたのが、現在のインターネットになる。

(現在のインターネットをレッドLANの反対という意味でブルーLANと言う)


「噂によると、ウィルスが勝手にインターネットを拡張してるんだっけ?」

「ウィルスに侵されたAIが暴走してるって話だ」

「そんなところになんの資源が眠ってるんだよ」

「今では作ることが出来ないプログラムや設計図、AIプログラム……ロストテクノロジーってやつが大量に眠ってる。どれか1つを持ち帰ってくるだけで時代が変わるとすら言われてる」


「で、その計画とこのチップがどう関係するんだ?」


 こんなちっこい青いチップが、そんな大層な計画を担っているとはどうも思えなかった。


「そのチップにはレッドLANに接続する上で必要なプロテクトやファイアーウォールが仕込まれている。戦場で戦うために防弾チョッキが必要なのと一緒だ」

「で、それを付けて発掘作業と」

「ああ」

「でも、失敗したのか」

「…………そうだ」

「なぜ?」


 ジェラルドの顔が一瞬強張った。

 どうやら、緊張している理由は、この先にあるようだ。


「そこまで言う義理はない。帰ってくれ」

「いや、帰れねーな」


 机を勢いよく蹴り上げた。

(ちょっと痛い)


「今巷でこいつが悪さしてるんだ。原因を突き止めなきゃ帰れねーよ」

「………なんだって?」

「なんでも、ボイジャー1号の電波を受信してるらしい。このチップは本当は何なんだ?」


 自分のことではあるが、ヤクザみたいだなと思った。

 だが、それよりも困惑したのは、ジェラルドの反応だった。


 文字通り、血の気が引いていた。


「も、もう1回言ってくれ……ボイジャーが……なんだって……?」


 ジェラルドの目は焦点が合っていなかった。

 触れてきた手も信じられないほど冷たかった。

 

「だから、ボイジャー1号の電波を受信してるんだよ」


 ジェラルドはフラフラと立ち上がった。

 明らかに狼狽えている。


「嘘だ……まだアイツらは―――というのか!?」





――― Ver4.7 ヘヴンズ・ゲート計画 終

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