Ver4.6 深淵を覗く

暗夜。

静寂。

そして、立ち並ぶ工場。


ここはトウケイ南部の工業地帯。

人が住む場所は見当たらず、ただコンクリートの建物が並べられている。

そんな場所をひとり、クジは歩いていた。

すると、とある工場の前で立ち止まり、スマートフォンを見た。

何かを確認し、そして眼の前の扉を叩いた。


―――反応はない。


もう一度叩く。


―――反応はない。


クジは仕方なく、扉から離れ―――

勢いよく助走を付けて扉を蹴破り、中へと入った。



ひしゃげた扉だったものが部屋の中を暴れまわる。

激しい音が工場の中を響き渡った。


そこにあったのは、大量のモニターとPC、巨大なサーバー、無数のケーブル。

まるで研究所のような……いや、そんなレベルではない。

クジは少し考え、頭の中から適切な言葉をひねり出した。


宇宙センターの管制室だ。


昔マヨイガが見せてくれた本の中にあったものそっくりだ。

(思い出したくない記憶)


だが、そのような施設はもう何百年も前に破棄され、姿を消したと聞いている。


そんな大昔の施設が、何故こんなところに、こんな場所にあるのか。


その不気味さに、クジは堪らず息を呑んだ。


一体ここで何をしようとしていたのか?―――


辺りを見渡す。

人の気はどこにもない。

すでに、もぬけの殻なのか?


そう思いながら物色していると、あるものを見つけた。


それは、あのチップ。



ヘヴンズ・ゲートと呼ばれていたチップだ。



「そこまでだ」


 クジの後ろからその声は聞こえてきた。

 男の声だ。

 頭には何か、丸くて硬い金属の筒のような物を突きつけられているようだ。

 馬鹿ではないので、分かる。

 銃だ。


 クジはゆっくりと両手をあげ、喋りだした。


「ジェラルド・ハワードだな」

「何をしてた」

「あんたを探してた」

「俺を殺すためにか?」

「だったらもう殺してるだろ」

「間抜けな暗殺者かもしれないだろ」


―――あ、今殺意湧いたわ


「誰の差金だ」

「だからちげーっての……」

「なら何を嗅ぎ回ってた!」

「このチップ」


 と、先程見つけたチップを指差す。


「……これがどうした」

「このチップの話を聞きに来た」

「……これが何なのか知ってるのか?」

「知らねーから聞きに来たんだろうが」


 やっと頭に突きつけていた銃を下ろし、ジェラルドは椅子に座った。

 ようやく、ジェラルドの顔を見ることが出来た。

 酷い目の隈だ。


「このチップのこと……どこまで知ってる」

「ヘヴンズ・ゲートって名前だってのは知ってる」


 あえて、魂が抜けたことは言わない。

 ジェラルドは、何かと葛藤しながら、口を開いた。


「……このチップはとある計画のために作られたチップだ」


「計画」


「その計画の名前が、ヘヴンズ・ゲート計画だ」

 ジェラルドの目には、恐怖が滲んでいるように見えた。




――― Ver4.6 深淵を覗く 終

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