Ver4.4 門は開かれた

 翌日。


 私はジゥの案内で豪華な一軒家を訪れていた。

 昨日依頼された仕事の件でだ。

 通された部屋ではやはり、写真で見た通り、少女が眠るように横たわっていた。


「……やっぱり抜けてるな」

「セミの抜け殻みたいですね」


 ブラックジョーク……。

 依頼主の家でよくまぁ堂々と言えるな。


「ご両親にお話を聞いてみましょうか?」

「経緯をか?」

「ええ、これ以上は見ただけじゃ分からないでしょう」

「いや……そうでもないかな」

「ん?」

「これ、見てみ」


 ジゥに、少女の首元を見るように促す。

 そこには、青いインストールチップが差し込まれている。

 昨日、ニーナというオートマトンから聞かされたインストールチップだ。


「これは……?」

「ヘヴンズ・ゲート」

「なんですかそれは?」

「分からん。だが、原因はこれっぽいぜ」

「随分調べましたね」

「お前が蹴り飛ばしてたオートマトンから教えてもらったよ」

「……嫌味ですか?」

「普通に言っただけだろ……変な絡み方やめろ」


 ジゥは強気で頑固だが、たまに子供っぽいところがあるから困る。

 気まずい雰囲気が部屋に漂っていた。

 すると着信音が響く。

 自分のスマートフォンからだ。


「おう、クソンか?」

「クジー、頼まれてたの調べてたんだけどさー」

「サンキュー、ってチャットで報告してくりゃよかったのに」

「いや、そっちには解析結果と製造元の情報送っておいたんだけどー」

「ど?」

「ちょっと、このチップおかしいよ」

「おかしいチップなのは理解してんだよ」

「そうじゃなくて、電波を受信してるみたいなんだけど……え、え、待ってこれって……」


 電話越しからすごい音が聞こえてくる。

 椅子から転げ落ちたのか。何かが吹っ飛ぶ音が聞こえてきた。

 そして、その次はものすごい速さでキーボードを打ち込んでいる音。


「……大丈夫か?」

「ダウンリンク8.415 GHz、アップリンク2.11467 GHz……そして、この角度……いやいや! ありえないでしょ……!」

「どうしたんだよ」

「クジ、驚かないで欲しいんだけど……」

「なんだよ」

「この電波の送り主はね……衛星」


 えいせい……?

 一瞬なんのことか分からなかったが、少し経って『衛星』であることを理解した。


「いやいや、衛星ってお前。もう何百年も打ち上げられてないだろ。確か、宇宙ゴミがどうとかで」

「うん、だからこれは随分前に打ち上げられた衛星……ううん、随分前なんてレベルじゃないよ……」

「勿体ぶらずに言えよ」

「本当に驚かないでね……?」

「あ、ああ……」


 クソンは生唾を飲み込み、緊張した口調で答えた。


「この電波の送り主は、1977年に打ち上げられた衛星―――」



 もう一度生唾を飲んだ。



「ボイジャー1号―――」





 ――― Ver4.4 門は開かれた 終

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