Ver4.3 ヘヴンズ・ゲート

「後少しです!」

 

 前を歩くオートマトンはそう言って足早に歩を進めた。

 

 彼女はニーナという汎用型オートマトン・タイプA。

 人間と同じ生活をすることを目的に作られたオートマトン。

 そして、さっきジゥに蹴られていたオートマトンだ。


「この先のアパートです!」

「はいはい」


 きっといい子なんだと思う。

 さっきから私が迷ってないのか確認してくれている。

 でもなんか、犬になった気持ちだ。


「ここです。ここの五階二部屋があります」


 そんな事を考えていたら着いたみたいだ。

 何の変哲もないボロアパート。

 壁紙は剥がれ、ドアは完全に閉まらない。

 コンクリートの階段も所々亀裂が入っている。

 トウケイの住民にとってはごく一般的なアパートだ。

 階段にライトがある分、良いアパートかもしれないな。


「んで、お友達が死にそうなんだって?」

「はい……」

 

 ニーナは暗い顔をした。

 (オートマトンの表情筋を舐めない方がいい)


「突然動かなくなって……再起動させても、何をしても起きないんです……」

「悪いけど、私は修理工じゃないぜ?」

「それはちゃんと理解しています」

「そりゃよかった」

「詳しくは、本人を交えて話しをさせて下さい」


 ルーナが立ち止まった。どうやらこの部屋らしい。

 扉を開けるニーナに続いて、部屋の中へ入った。

 (土足で失礼します)


 そして、そこには件のオートマトンがいた。

 ベッドに仰向けで眠っている。


「これが?」

「はい……」


 パッと見るにただ眠っているようにしか見えない。

 (オートマトンなので、電源OFFが正解か)


「まぁいいや。何があったか教えてくれ」

「大したことじゃなかったんです……」

「大したことじゃなかったなら、こいつは死にそうになってないだろ」

「私達はただ、チップをインストールしただけなんです」

「チップ?」

「はい。友達とバーで飲んでたら、あるオートマトンからチップを渡されて……」

「おいおい……拾い食いかよ……知らねー奴から渡さたチップなんてヤバイにきまってんだろ……」

「私は止めた方がいいって言ったんです! けど……」

「面白がってインストールか……馬鹿だねぇ」


 私はベッドに座り、オートマトンの首元を見た。

 そこには、青いチップが埋め込まれている。

 これか。


「彼はこのチップを入れれば天国に行けるって言ったんです」

「へぇ……そのチップの名前、分かるか?」

「ヘヴンズ・ゲートって言ってました」


 神すら見捨てたこの世界。

 そんな名前をつける奴は決まっている。


 相手は、同業者だ。




――― Ver4.3 ヘヴンズ・ゲート 終

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