Ver4.2 抜け殻

 事務所に入ると、早速仕事の話になった。


「まずは事前情報の共有をさせて下さい」


 ジゥは1枚の写真を見せてきた。


 そこにはベッドに横たわる少女が写っている。


「……なにこれ」

「依頼者の娘さんです」

「へー……で?」

「……もうちょっと真面目に見てもらえますか?」


 ジゥがこちらを睨んできた。

 (おおこわ)


「冗談だよ。つってもこれだけじゃ何も分かんねーよ」

「本当にそうですか?」

「うん?」

「よく見て下さい。ご自慢の目で」


 ムカつく言い方するなぁ……


 もう一度写真を見てみると、1つ気づいたことがある。


「おいおい……マジかよ……」

「見えましたか?」



「魂が抜けてるぞこいつ……!」



「そうです。この身体には魂がありません」


 そう言うとジゥはテーブルに置かれたカップを手に取った。


「幽体離脱か?」

「いえ、幽体離脱なら長く離れることはできないはずです」

「待て、まさかまだこのままなのか……?」

「はい、既に2週間経っています」

「2週間!?」


 魂と肉体が離れることは偶にあることである。

(この世界ではな)

 しかし、2週間という長い時間を魂と肉体が離れるというのは聞いたことがない。

 というか、そんなに長く離れていたら―――


「ほぼ死んでいると同じですよね」


 カップに口を付けながら、ジゥは言った。

 また人の心を読んだのかこいつは。


「まぁ……医術的にはそうかもな」

「当然ながら依頼主もそう医者に言われたそうです」

「だから、こっちにお鉢が回ってきたってことね」

「その通り。今日は理解が早くて助かります」


 またムカつく言い方するなぁ……


「うーん……だけど、写真だけじゃ判断は難しいな」

「実物を見ないと詳細は分からないと」

「まぁ、そりゃね」

「なので、明日ご自宅にお邪魔させて頂く段取りにしました」


 わぁ、手際が良いですねー。

 たっぷりお金もらったのかなぁ?


「そういえば」

「はい?」

「なんで依頼主は死んでないって分かったんだ? 霊感でもあったのか?」

「そこまでは詳しく聞きませんでした」

「聞いとけよ」

「あまり喋りたくなさそうだったので」

「……そうっすか」


 こういうところがジゥらしいと思う。

 私なら遠慮なく首根っこ掴んで吐かせちゃうもん。


「んじゃ明日からの仕事ってことでいいんだな?」


 そう言ってソファーから立ち上がる。


「もう帰るんですか?」

「おめーといると疲れる」

「失礼ですね」

「お前がな」


 中指を立てるのを我慢しながら、事務所を後にした。

 

 とりあえず面倒なことは終わった。

 家に戻ろうと歩み出すと、誰かに呼び止められた。


「すみません……」

「うん?」


 振り向くとそこには―――


「あれお前、ジゥに蹴られてたオートマトンじゃん」





 ―――Ver4.2 抜け殻 終

 

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