Ver4.1 自らの属性

 秋。


 四季など、とうに消えたと思っていた。

 トウアンの街並みはいつも変わらないからな。

 なのに、この日ばかりはとてつもなく寒い。

 普段なら家から出ないでコタツでダラダラとしているはずなのだが……


「まーた呼び出しだよ……先生かあいつは」


 毎度のことである。

 人のことをなんだと思っているのだろうか。

 便利な駒か?


 あ、なんも思ってねーか。


 などと寒空の下を愚痴りながら歩いていた。

 すると、あっという間に巫巫道堂についた。

(意外と近いんだな)


 ―――さてさて、どんな面倒なことを押し付けられるのかねぇ~?


 そう思いながら、事務所に近づいていくと、なんだか騒がしい。

 よく見てみると、ジゥが誰かと揉めているようだった。


「お願いします、代金は払いますから!!」

「いい加減にしてください……」


 どうやら依頼の話らしいが、ジゥは拒否しているようだ。

 それもそうだろう。

 なぜなら相手はオートマトンだからだ。

(相手が悪かったね)


「友人が死にそうなんです! あなたにしか助けられないんです!」

「そんなの知りません。修理工場にでも連絡してください」

「そういう感じじゃないんです!!」

「どうだろうと依頼は受けないので、はやくどっかいってください」

「お願いします! 助けてください!!」


 そう言ってオートマトンはジゥの腕を掴んだ。


 ―――あ、終わったわ


 思ったのもつかの間、ジゥはそのオートマトンを蹴っ飛ばした。

(さすが性悪)


「帰れっていってんだ」


 そういうとジゥは事務所の中へと戻っていった。


 蹴っ飛ばされたオートマトンは、しばらく動けずにいた。


 さすがに声をかけるべきか。

(フォローも兼ねてね)


 そう思っているとオートマトンは立ち上がり、力ない足取りで、無情な街の中へと消えていった。


 少しばかり行動しなかった自分に失望した。

 ふと物陰を見るとジゥがいることに気が付いた。


「誤解してほしくないのですが」

「うん」

「私はオートマトンが憎いわけではないですからね」

「へぇ、初めて知ったわ」

「私は起源を尊重しているのです」

「ふぅん」

「オートマトンはオートマトンであり、人間は人間です」

「それが、オートマトン嫌いとどう関係があるわけで?」

「例えば、あの人のようになりたいから整形すること」

「うん」

「もう一つ、あの鳥のようになるために羽を移植すること」

「わぁ」

「一緒だと思います?」

「前者は、そっすかって感じだけど、後者は狂ってるかなぁ」

「そういうことです」


 ジゥは事務所のほうへ、足を向けた。


「生まれた自分を否定することは、死んだのと同然です」


 そう言って、ジゥは事務所へと消えていった。


「ご高尚なこって」





 ―――Ver4.1 自らの属性



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