Ver3.6 それは災厄の怪異

 ジゥに指定された動物ミュージアム。

 それは奇しくも、クジとクソンが訪れた動物ミュージアムだった。


「こりゃぁ……」


 閉館したミュージアムの中に通されたクジとクソン。

 目の前に横たわるのは狐のアニマルオートマトン。

 しかし、明らかに様子がおかしい。


 何かに怯えるように震え、辺りを警戒している。


 その姿は、まごうことなく動物そのものだ。


「いつからこうなったんだ?」


 隣にいる小柄な老人に尋ねた。

 このミュージアムの館長だ。


「はい、午後の展示が始まってからすぐに……」

「私たちが出てった後だね」


 クソンが小さな声で言った。

 関係があるとは思いたくないな。


「なんとかなりますかね……?」


 館長は何かに怯えた様子で尋ねてきた。

 

「そういや、CESは来てねーのか? 」

「まだ呼んでいません……」


 ―――ああ、なるほどな。


「まぁ、分かった。後はやっとくから、少し外に出てな」

「ありがとうございます! ありがとうございます!」


 こちらが引くぐらいお礼をしながら館長は部屋を出て行った。

 そして、私は深くため息をついた。


「……CESに連絡したら多額の賠償金だもんな。そりゃ言えねーわ」


 クソンも同調するように頷いた。


「館長だからきっとロイヤルだよね? ロイヤルでもCESには逆らえないのかー」

「この世はCES様のお陰で保たれてるからな。神がいるとしたら鋼鉄なんだろうな」

「あんまり面白くない冗談だよー」

「皮肉ですよ皮肉」


 そう言いなが私はとある場所へと足を向けた。


「どこ行くの?」

「展示場、他のオートマトンの確認。それの魂抜きは任せたわ」

「ちょっとー!! 今日全部私に任せてるよクジー!!」


 何か聞こえた気がしたが、私は無視した。



 ――――――――――

 ―――――――

 ――――

 ――

 


 展示場は照明が落ち、昼に見た時とは違い、どこか異様な雰囲気が漂っていた。


「…………大丈夫そうか」


 1体ずつ、念入りに確認をする。

 この場で1体エラーコード九十九が発生したのだ。

 それはつまり、魂がこの場を漂っているということ。

 他のオートマトンも、エラーコード九十九が発生することは十分にありえる。

 この確認は、二次被害の防止になるのだ。


「よし、あとは一応札貼っておくか……」


「意味ないわよそれ」


 反射的に振り向いた。

 その声には聞き覚えがある。

 誰かを理解した瞬間、頭には熱い血が上り始めていた。


「…………マヨイガ!!」


 マヨイガはわざとらしい笑みを浮かべた。


「元気にしてるクジ? ちゃんとご飯食べてる?」

「…………」

「あなたは少食だったからね、意識して食べないと倒れちゃうわよ?」

「…………」

「ああ、そうそう。今度家に上がらせてもらうわね? トウジさんにお線香あげたいから」


 ―――九字護身法:皆


 素早く九字を切る。

 瞬間、私の身体はマヨイガの背後に転移した。

 間髪入れず―――


 ―――九字護身法:り


「こら」


 マヨイガは指を一振りした。

 それだけで、私の身体は動かなくなった。


「臨はダメよ。身体を悪くするわ」

「てめぇ……!!」

「なんで怒ってるのかしら? 私が正体を隠していたから? それとも、トウジさんを殺したから? それとも―――私が貴方の母親だから?」


「全部だボケェ!!」

「お母さん分からないわ? 私はただあなたに強くなって欲しいだけなのに」

「お前の思い通りになんてならねぇ!! 絶対にな!!」

「反抗期ねぇ~。でもいいわ、お母さんは許してあげる」


 そう言うと、腕を高々とあげた。


 その構えには、見覚えがあった。


「やめろ……」

「思い通りにならない? 何を言ってるの?」


 マヨイガはいつものように、相手を見下した笑みを浮かべた。


「貴方はずっと、私の手のひらの上よ」


 パチン―――


 館内に響く乾いた音。

 マヨイガが指を鳴らした。

 その音が響き渡ると同時に。

 展示されていたアニマルオートマトン達が動き出す。


 エラーコード九十九だ―――


「運命に抗ってみなさいな、クジ」





 ―――Ver3.6 それは災厄の怪異 終

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