Ver3.7 抗うのが、定め

「それじゃ、元気でね」

 

 満面の笑みを浮かべたマヨイガは、煙のように消えた。


 後に残ったのは、エラーコード九十九を発生させたアニマルオートマトン。

 展示場に飾られていた全てだ。


「最悪だな……」


 やっとマヨイガの術から開放されるも、うまく身体に力が入らない。

 まだ術の影響が残っているようだ。


 しかし、幸いにもアニマルオートマトンたちはすぐには暴れ出さなかった。

 むしろ、困惑しているように見えた。

 

 そりゃそうか。

 本来、憑依に近いエラーコード九十九は器の相性を吟味して憑依している。

 こんな無茶苦茶な憑依、エラーコード九十九は前代未聞だもんな。


 だが、それも少しの合間の話。

 いずれ身体を認識して、襲いかかってくる……


 ほら、あいつみたいにな……

 

 狼のアニマルオートマトンが、荒い呼吸をしながらクジを見つめていた。


 狼を見るのは初めてだ。

 だが、分かる。

 あれは、捕食者の目。

 今から食い殺す奴の目だ。


 刹那、狼は飛びかかってきた。

 美しい跳躍、空中で孤を描いている。

 そして口元にはギラリと光る牙が見えた。


 それらがはっきりと見えるということは―――

 

 ああ、死ぬのか―――


 そう悟った瞬間、狼は空中で矢に射抜かれた。

 激しい音と共に吹き飛ばされた。


「クジ‼」


 弓を射ったのはクソンだった。

 慌てた様子で近寄ってくる。

 (まぁ、そりゃそうか)


「今回は察しがいいな……」

「どうしたの⁉」

「マヨイガにやられた……」

「なんであいつがここに……」

「それはどうでもいい……今はこいつらを何とかしないと……」


 眼の前にはエラーコード九十九の群れ。

 目先の問題はこっちだ。


 彼らの目の色はガラリと変わっていた。場は張りつめている。

 さっきの襲ってきた狼が、彼らの意思を決めたということだろうか……。


「やるぞクソン」

「全部払う気!? こんな数無理だよ!」

「分かってる……でも、逃げるわけにはいかないだろ」


 だって、私たちは巫女だから―――

 この世界で唯一の巫女なのだから―――

 

 痺れる手足でなんとか立ち上がる。

 クソンは、呆れながらも理解してくれたようだ。


「仕方ないか、それが運命ならさ……」

「ほんと、クソみてーな運命だな……」


 アニマルオートマトン達が一斉に飛びかかってきた。

 唸り声、地響き、殺意をぶつけられる。

 

 ―――なに、いつものことじゃないか


 私とクソンは構えて―――

 唱えた―――


 ―――九字護身法:陣


 ―――四柱推命:特殊星大極貴人



 生気がぶつかり、空気が震える。



 そんな中、私は―――

 イヒョンとあのトラ、ナラのことを、ふと思い出した。





―――Ver3.7 抗うのが、定め 終

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