Ver3.4 君のために

「悪いことは言わない。もう関わるな」

「……それはどういうことですか?」


 そう尋ねるイヒョンの顔は、不思議と驚いていなかった。


「どうもこうもなしだ。今すぐお家に帰んな坊っちゃん」


 いやみったらしく言ったのはわざとだ。

 あのトラは、今とても危険な状態にある。

 一般人を近づけておくわけにはいかない。


「……エラーコード九十九ですね?」


 イヒョンからその言葉が出てくるとは思っていなかった。

 完全に不意打ちだ。


「なんだそれ?」

「声、上ずってますよ」


 ―――嘘が下手すぎるぞ私


 観念してちゃんと話すことにした。


「お前、エラーコード九十九についてどれくらい知ってる?」

「噂で聞いたくらいですかね」

「簡単に説明すれば、オートマトンに宿現象。それがエラーコード九十九だ」

「魂ですか……」

「そこから起こることは様々だ。霊が乗り移ったり、他の人間の魂が宿ったり」

「不思議ですね……」

「まぁ、現実離れした話なのは分かる。だが事実だ」

「つまり、ナラも同じ状態にあるということですね?」

「ああ、あのトラのオートマトンには魂が宿ってる。間違いなくな」

「その魂というのは……悪さをするんですか?」

「分からん。エラーコード九十九はあくまで予兆でしかない、どうなるかは誰も分からん」

「……本来ならどうするのが正しいのですか?」

「私達がいる場合なら、魂を身体から剥がす。祈祷とかしてな」

「いない場合は?」

「エラーコードが出たオートマトンはどう処理される?」

「……破壊処分ですね」

「そう」


 イヒョンは黙ってしまった。

 現実離れした話だ。理解できないだろう。

 だが、これで観念して帰ってくれれば有り難い。


「うん……やっぱり決めた」


 イヒョンは強い意志を込めて言った。

 その様子に、私は一抹の不安を覚えた。


「お前、何を考えてるんだ?」


「ナラを……帰してあげたいんです。故郷に」





 ――― Ver3.4 君のために 終

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