Ver2.10 人としての結末

 真夜中。


 郊外。


 CES・ムーア傘下。


 第九研究所。


 1台の車が玄関の前に止まった。


 男が1人降りてきた。


 ヘイリーだ。


 そして、玄関のドアを激しく叩いた。


「おい!! クソ女!! 出てこい詐欺師!!」


 ヘイリーは怒っているようだ。

 腰から何かを取り出した。

 銃だ。

 玄関に銃口を向け、セーフティを外した。


 と


「やめてもらえるかしら」


 ヘイリーは驚き振り返った。

 すぐ後ろに女が立っていた。

 黒いドレス、大きな帽子を被ったその女は、赤い瞳をヘイリーに向けた。


「何時だと思っているの?」

「関係ないな。今すぐ直せ詐欺女」

「藪から棒ね。何の話か分からないのだけど」

「お前がユーシーを呼び戻せるって言ったんだ!! もう一回呼び戻せ!!」


 ヘイリーが車の後部座席を開けた。

 そこには、ワン・ユーシーと呼ばれる人間が眠っていた。


「……ああ、あなただったのね」

「風水師が言ってたぞ。この身体には2つの魂が眠っていたと」

「……問題ないわね」

「だが、今は1人の魂しかないと言っていた!!」

「あらあら」

「早く元に戻せ!! もう1回ユーシーに戻せ!!」


 女は高らかに笑った。


「戻せではないでしょそれ。1、でしょ?」


 クスクスと笑い、女はヘイリーを見つめた。


「詭弁はいいから早くやれ!!」


 ヘイリーは女に銃を向けた。

 物陰からオートマトン兵も現れた。

 そして、彼らも女に銃を向けた。


 そんな中、女はクスクスと笑っていた。


「私は言ったはずよ。一時の安息でしかない、悠久の夢にはならないと、覚えてる?」

「……」

「あなた、随分食い下がったじゃない。そんなに言うならって私は2つの要求をしたわよね?」

「…………」

「1つは戻したい魂、2つ目は壊したい身体。そうしてあなたが渡したのが、恋人の魂と、恋人の姉の身体よね?」

「………………」

「恋人の魂を埋め込んだ循環器機能補助マシンをあなたに渡して、姉の身体に埋め込めばいいと指示したわね。そして最後にもう一度言ったはずよ、一時の安息でしかないって。なんで分かってないのかしら?」

「うるさい……」

「もしかしてあなた……もう1回頼めばなんとかなるとか思ってたの? 魂を何だと思ってるのかしら」

「殺せ!! この女を殺せ!!」


 ヘイリーはオートマトン兵に向けて叫んだ。

 

 ――――――――――――


 しかし、オートマトン兵は1つも動かなかった。


「何してる!? 早く殺せ!!!」

「やめて下さい。ヘイリーさん」

 

 車の影から人影が現れる。

 聞き慣れた声。

 しかし、存在しないはずの声。

 タオ・ジゥだ。

 (私とクソンもいる)


「ミス・ジゥ……」


 おうおう、驚いてる。

 そりゃそうだ、殺したはずだもんな。

 シュリハンドクに依頼してまで殺したはずだもんな。


「どうして……」

「その後に続くのは”生きているの”ですか?」

「…………」

「すべて話しは聞きました。全部あなたが起因だったんですね」

「…………くそぉ!!」


 ヘイリーは銃をこちらに向けた。

 私達は咄嗟に身を屈めた。


 静かな夜に銃声が鳴り響く。

 それは、寂しげな音にも聞こえた。


 恐る恐る立ち上がると、撃たれていたのは―――

 ヘイリーだった。


 手から血を流し、地面に銃が転がっている。

 撃ったのは、オートマトン兵のようだ。


「なんで……」

 

 理解できないだろうな。

 自分が雇ったオートマトン兵が雇い主を撃つなんて。

 だけども、相手が悪かったとし言いようがない。


「それで、どうしたいのあなたは?」


 赤い瞳の女は、ヘイリーに近づきそう言った。


「……ユーシーを……ユーシーを返してくれ」

「いいこと教えて上げる」

「……?」

「ユーシーの魂はね、もうこの世にいないわ―――」

「……え」


 ―――だろうな

 フーチーをして現れなかったということは、そういうことだ。


「でもね、とっておきのプレゼントがあるみたい」

「……は?」


 赤い瞳の女の隣には、いつの間に誰かが立っていた。

 ユーシー……いや、ユートンだ。

 

 ユートンは、地面に落ちていた銃を取った。

 そして―――

 銃口をヘイリーに向け―――

 引き金を引いた―――


 2回目の銃声が闇夜に木霊する。


 そして、3回目の銃声が聞こえた。


 ユートンは、自らの頭を撃ち抜き絶命した。


「これで満足かよ……マヨイガ」


 私は堪らず声を発した。

 マヨイガと呼ばれるその女に向けて。





―――Ver2.10 人としての結末 終

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