Ver2.11 全ては些細な出来事となる

「満足? 何の話?」

「とぼけんな。全部テメーのせいだろうが」

「酷い言われよう。私は願いを叶えて上げただけじゃない。いつものようにね」


 赤い瞳の女、もといマヨイガはニヤリと笑う。

 あの顔を見るのは二度目だ。


「ジゥ、成長したわね。六壬神課はもう掌握したのかしら?」

「……」

「車の爆発から逃れたのも六壬神課のおかげよね? 運命を捻じ曲げたのかしら? それとも回避? ああ、もしかして運命に到達する時間を伸ばしたの?」

「お前と話すことはない。消えろ、腐れ外道」


 怒気のこもった声だった。

 ジゥは相当キレているようだ。

 (そりゃそうか)


 マヨイガは不敵に笑った。


「ジゥ、クソン、クジ、また会いましょうね」


 そう言うと、マヨイガは煙のように消えた。

 残されたのは私達3人と2つの死体。

 それと、エラーコード九十九を吐いたオートマトン兵だけ―――



 いつの間にか空は、朝焼けに包まれていた。


 長い悪夢のような1日が、やっと終わりを告げた。


 ――――――――――

 ――――――――

 ――――――

 ――――

 ――


 その日の午後。

 共同墓地に足を運んだ。

 (墓地と言っても、遺灰を入れるロッカーなんだけどな)

 多分ここにあいつがいると思ったからだ。


「ジゥ」


 やはりそこにはジゥがいた。

 『ワン・ユートン』と書かれた墓地の前に。


「……もう起きたのですか」

「嫌な夢を見てな」

「……そう」


 ジゥは持っていた爆竹に火をつけた。

 その音は昨日の悪夢を想起させる。


「安らかに眠ってくれればいいけどな」

「……そうですね」

「姉妹一緒に……な」

「……本当に」


 2人の魂の安寧を祈り、私は手を合わせた。

 


 その日のトウケイの町並みは、いつもと変わらなかった。


 うるさくて。


 鉄臭くて。


 何もかもが空っぽな町並み。








 この悲劇も、明日には誰も覚えていないのだろう。





―――Ver2.11 全ては些細な出来事となる 終


―――Ver2 彷徨う魂、蠢く魄 完


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