Ver2.8 あなたは誰?

「どういう状況?」


 翌日、昨日と同じ屋敷にて。

 私は目の前で眠るユーシーを見て、そう言った。


「こーいうー状況♪」


 クソンが、いつものバカ陽気な声で返答してきた。


「てめーの話はしてねーから黙れ。てかなんでお前がいんだよ」

「ジゥに来いって言われたんだもーん」


 これもジゥの差金かよ。

 なにがしてーんだあのバカ。


「聞こえてますよバカ」


 向かいで何かを準備しているジゥがそう言った。


 ―――いや、何も言ってないんですけど、こわ


「んじゃちゃんと説明しろ。何する気だよ」

「随分と気にかけるじゃないですか」

「そりゃそうだ。なんでトランス状態で寝させてんだよ」


 トランス状態、それは我々シャーマンが神との交信を行う時に使う意識状態だ。


「まるで、今から交信するみたいな……」


 と、言いかけ気づいた。

 ジゥの目論見に。


「そうです。今から、降霊を行うのです」


 ジゥは大きな箱を取り出し、ユーシーの隣に置いた。

 中には白い砂が敷き詰められている。


「フーチーか……」

「あら、知ってましたか」

「コックリさんみてーなものだろ。流石に知ってるわ」

「じゃあ、これ。よろしくおねがいします」


 と言って、ジゥは二股の木をこちらに差し出した。

(二股の木は乩木といい、コックリさんでいうコインの役目をする)


「なんで渡すんだよ」

「フーチーは2人でおこないますので」

「だからクソン呼んだのか……」

「やーるー!」


 うっさ。


「で、誰を呼ぶんだ? 神でも下ろすか? 答え教えてくれんじゃね」

(もちろん無理だけど)

「ユーシーを下ろします」

「本人の生霊をかよ!?」


 思わず声がデカくなってしまった。


「生霊は流石に危なくなーい?」


 クソンも思わず問いかけた。

 そりゃそうだ。

 トランス状態の人間から生霊を呼び出し、それに話しかけるなんて。

 相手の心底に触れると同義。

 下手すればトラウマを呼び起こし、拒絶反応から死に至ることもある。

 かなり危険だ。


「確かに、その生霊がユーシーなら危ないですね」

 

 ……

 どういう意味だ?

 生霊がユーシーなら危ない?

 ユーシーは今ここに寝ているわけで……。

 なら、生霊でしか下ろせないだろ。


 隣りにいるクソンと顔を見合わせる。

 どうやら同じく、ピンときてないようだ。


「さて、ぱぱっとやりましょう。長居すると怪しまれるので」


 私とクソンは、一抹の不安を抱きながら木を握った。


「では行きます」


 ジゥは目を閉じ、小さな声で何かを唱えた。


 フーチーが始まる。

 フーチーはコックリさんとほぼ同じだ。

 下ろした霊に問いかけると、この握られた木が勝手に動き出す。

 動き出した木は、箱の中の砂に文字を綴っていく。

 そうして、下ろした霊と会話するのである。


 しばらくすると、部屋の中の空気は明らかに変わった。

 重く、暗く、どこからか焼香の匂いが漂う。

 

 ジゥが目を開き―――

 交信が始まる―――


「貴方はこの身体の主ですか」


 私とクソンが握る乩木が動き出す。


 ”は    い”


 ―――降霊は成功したようだな


 ジゥが続けて質問する。


「貴方は質問に答えることができますか」


 ”は    い”


 降霊は順調。

 交信も問題ない。

 ジゥはついに、本題を切り出す。


「貴方はワン・ユーシーですか」


 木がゆっくりと動き出す。



 ”い    い    え”

 

 

 3人の背筋に緊張と、寒気が走った。





―――Ver2.8 あなたは誰? 終


 

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