Ver2.7 意味のないオーダーメイド

「なーんでおめーなんだよ」


 血と腐敗の地下都市、トナンの路上で、私は嘆いた。

 リ・クソン、そこそこ有名なストリーマーであり、シャーマン。

 (巫堂)(もちろん生身)


 巫巫道堂に所属する3人のシャーマンのひとりである。

 (私、ジゥ、クソンで巫巫道堂というわけ)


 なのだが、この女―――


「そういえばさ?」

「あん?」

「23時から配信したいから早く終わらせてね?」

「いや、それは知らん」

「というか、お腹空かない? どっかでご飯食べよ?」

「……」

「あ! そうだぁ!ついでに買い物しておこうと思ってたんだ!」


 基本的に人の話を聞かない奴である。


 こんな奴に仕事の依頼が来ると思うか?

 来るんだなこれが。

 (ほんと、なんで?)


「いいからさっさと仕事やんぞ」

「えー、ちょっとは楽しもうよー」

「トナンはゲーセンじゃねーんだよ」

「そりゃクジは見慣れてるかもしれないけどさ、わたしは滅多に来れないんだよ?」

「それはテメーが引きこもりなだけだろ」

「そのとおり! あ、なにあれ!!」


 そう言ってクソンは人混みの中に消えていった。

 

 ―――もう勝手にしてくれ


 私はジゥから受け取った資料を片手に、闇技師の元を訪ね歩いた。

 義手専門。

 内臓専門。

 脳専門。

 先々でユーシーが付けている循環器機能補助マシンの型番について聞き回った。

 が、ある事実が発覚する。


「型番が存在し無いって……どういうことだ」


 ユーシーが付けている循環器機能補助マシンは市場に出回っていないという。

 そもそも、存在しない製品なのだ。


「試作品? 試供品? それとも…」

「オーダーメイドでしょ」


 振り向くと、両手に肉まんを持ったクソンが立っていた。

 (何してんだこいつマジで)


「オーダーメイドでしょ?」

「いや、聞こえてるよ。んじゃ型番はなんだよ」

「しらなーい」

「ムカつくなおまえ」

「オーダーメイドなら、もう答えがわかったようなものじゃん」

「……タロース社か」

「それかヴィスパーラ。その依頼主のツテだろうし、調べたらすぐでしょ」

「これ以上の情報はなさそうだし、ジゥに連絡しておくか」


 スマホを取り出し、ジゥに手に入れた情報を伝える。

 すると、ジゥは明日の集合場所を伝えてきた。

 (つまり、明日も仕事ということだ。はぁ…)

 

 嫌気が指しながらもそれを承諾し、私はクソンと夕飯を食べに飲食街へ向かった。

 だがその時、ふと思った。



 なぜ、循環器機能補助マシンを互換性皆無のオーダーメイドにしたんだ?



 その疑問は、翌日明かされる事になる。

 そして、この奇怪な依頼も翌日、幕を下ろしたのだった。



―――Ver2.7 意味のないオーダーメイド 終

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