Ver2.6 答えは

「霊視の結果はどうでしたか?」


 ジゥはこちらを見ずに、そう問いかけてきた。

 車窓の外はいつものトウケイの町並みが映っていた。


「異常はなかったよ」

「少しも?」

「……少しはあったけど、あんなの普段生活してたら誰にでも付くレベルだぜ?」


 そう、生きていれば誰しも霊との接触は起こる。

 空気と同じである。


「例えば狐憑きとか怨霊とか、祟りの類のような痕跡は無かったよ」

「……なるほど」


 ジゥの顔はさらに険しくなった。


「そういやお前、最後のあれなんだったんだ?」

「あれとは?」

「コーヒー、意味深に言っただろ」


 部屋を出る前に言ったジゥの言葉。

 あまりにも違和感のある発言。

 それと、それを受けてのユーシーの反応も―――


「私が知っているワン・ユーシーは大のコーヒー好きです」

「だから、すぐに手をつけないのが変だったっていいたいのか?」

「それ以外にも彼女は元々左利きです」

「さっきは……」

「右手でドアを開けていました」


 ―――よう見てんなぁ


「つっても、たまたまコーヒーを飲まなかっただけかもしんねーし」

「ええ、たまたま右手でドアを開けただけかもしれません。難癖に近いです」

「……つっても」

「そう、すでに何十年も行っているようなルーティーンが突然変わることは稀です」

「なんかあるなこれは」


 二転三転する発言。

 突然変わった癖。

 そして、夫婦の態度―――


 あまりにも怪しい。

 一体何を隠しているのか……。


 と、熟考していると車が突然止まる。

 私は頭を前の座席に思いっきりぶつけた。

 (だって急に止まるなんて思わないじゃん)


「いってぇ!?」

「時間がありませんのでここからは二手に別れましょう」

「別れるって、私は何すんだよ?」


 ジゥは1枚の書類をこちらに渡してきた。


「なんだよこれ」

「ユーシーがつけている循環器機能補助マシンの型番です」

「いいのかよ、顧客の情報を勝手に渡して」

「ええ、大丈夫ですよ」


 ―――開き直ったよ


「……多分、あの人はもう私の顧客じゃないと思うので」


 ―――どういう意味だそれ?

 

 そう聞きたかったが、さっさと降りろと言わんばかりに、車のドアが開いた。

 何も喋らない時のジゥは本当に怖いので、ご注文通り車から降りることにした。


「ああそれと、助っ人のほう呼んでおいたので、仲良くやって下さいね」

「は?」

「それじゃ、連絡待ってます」

「いや、ちょっと待てこれだけじゃ何も!!」


 と言ってみたが、無常にも車は走り出し、トウアンの喧騒の中に消えていった。


「あのクソアマ……誰なんだよ助っ人って」 


「わたしだよー♡」


 背後から、聞いたことのある甘ったるい声がした。

 恐る恐る振り返る。

 そこにはピンクと白、いわゆる地雷系と言われるファッションに身を包めた―――


「クソンかよ……」




―――Ver2.6 答えは 終

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