Ver2.5 違和感は喋りだす


 家に上がり、奥の部屋へと通される。

 大きな窓、大きなベッド、私の家の広間よりも確実にデカい。

 ここが個人の部屋ってマジですか?

 世の中の不平を叫びたくなるぜ!!!


「一方的な電話ですみませんでした」


 ソファーに座ると、ユーシーはそう言った。


「いえ、私が何かやらかしたのであれば謝らせてください」

 

 と、言うとジゥが頭を下げた。

 その光景に驚きすぎて、私は10秒くらい固まっていた。

 

 ―――え、キモい……


 またいつもの演技なんだろうけど、ここまで自分を偽れるの普通に怖い。

 

「いえ、ジゥさんには何も間違いはありません」

「そうでしたか。であれば、少し安心しました」


 顔を上げるとジゥは、いつものあの笑顔でそう答えた。


「それで、よろしければ解約の理由をお聞きしたいのですが」

「単純な理由でして……身体の不調がすっかり無くなってしまったんです」


 不自然に間が空く。

 ジゥはニコリと笑い話を続けた。

 

「そうでしたか。では、頭痛の件も?」

「はい、もうすっかり」

「なるほど。それは、病院から戻られてから?」

「はい」


 また、不自然に間が空く。


「であれば、次の治療で終わりにしていいかもしれませんね」


 ジゥはまた、ニコリと笑いそう言った。


「本当に、ジゥさんにはお世話になりました」

「いえいえ、私はほんの少しお手伝いしただけですから」

「最初は正直疑っていた部分もありまして……」

「そういうお客様ばかりですよ」

「でも、今はとても感謝してます」

「いえいえ、本当に大したことはしていません」


 どうやらここからはご歓談といった雰囲気のようだ。

 部屋にメイドが入ってくると、コーヒーとお菓子をテーブルに並べていった。

 どれもこれも、私の家にあるお茶請けとは比べ物にならないほど美味しそうだ。

 (まぁ貧乏だから買えないからな)

 

 1つ頂こうと皿に手を伸ばすと、ジゥがソファーから立ち上がった。


「では、そろそろお暇いたします」

「え」


 思わず声が出てしまった。


「もう少しゆっくりして頂いても構いませんのに」

「何の連絡もせずに押し入った身分ですから、あまり長居はできません」


 それはそう。

 

「そうですか……それでは玄関までお送り到します」

「いえ、大丈夫です。ご主人にご迷惑おかけしましたとお伝え下さい」


 そう言うとジゥは小さく頭を下げ、扉へと近づいてく。

 名残惜しいが私もその後ろに続いた。

 と、ジゥは扉の前で立ち止まり、いつもの張り付いた笑顔で言った。


「コーヒー、冷めちゃいますよ」

「え」


 ユーシーは発言の意図が分からない様子だった。


「それでは、失礼いたしました」


 会釈をして部屋を出ていくジゥに習い、私も会釈して部屋を出た。

 その時に見たソファーに座るユーシーの顔が忘れられない。

 まるで何か取り返しのつかないミスをしたような。

 そんな顔だった。




 屋敷を出た後、私とジゥは無言のまま車に乗り込んだ。

 お互いが何かしらの違和感を抱いているのは言葉にせずとも理解できていた。

 

 重苦しい雰囲気の車内。

 先に口を開いたのはジゥだった。




―――Ver2.5 違和感は喋りだす 終

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