Ver1.8 機械が見た夢は

 獏

 人の夢を食って生きる伝説の生きもの。

 

「ここまで肥大化してるのは初めて見るな……」


 ハクに近づきその異常で異様に膨らんだ身体に触れる。

 エラーにしては異常すぎるし、霊障にしてはデカすぎる。

 ハクの置かれている状況は、科学的にも霊的にも危険な状態なのは、一目で分かった。


「大丈夫ですよね? 助けられますよね?」

「…………無理だな」

「え……」

「あまりにも身体に同化しすぎている。これじゃもう祓うなんてレベルの話ではない」

「……嘘だ」

 

 怒鳴り声の1つでも来るかと思ったが、絶望が勝ってしまったようだ。


「これで、いいんだよ」


 ハクはどこか諦めたような声で言った。


「これが、きっと罰なんだ」

「罰って……そんなことない! ハクは悪くない!」

「悪いよ。旦那様と奥様を殺しちゃったんだもん。許されるわけがない」

「あんな奴ら……殺されて当然なんだ!!」


 キイチロウの声が悲しく埠頭の中に響き渡る。

 どうやら、事件の全容が見えてきそうだ。


「いつもいつも家にも帰ってこないで、メディアの前だけいい格好して、一度たりとも僕の目をみて喋ったこと無い奴らなんて、死んで当然なんだ!!」

「きーくん……」

「だから、悪いのはハクじゃない! ハクはただ、僕の願いを叶えただけなんだ!!」


 ―――そういうことか


 オートマトンの件も

 エラーコードの件も

 両親の件も

 すべては――


「お前が原因なんだな、キイチロウ」


 キイチロウは何も喋らない。

 ハクは、とっさにキイチロウに覆いかぶさった。

 まるで、子犬を守るかのように―――


「お前の両親に対する怨嗟が獏を呼び寄せたんだ。獏は夢に群がる。お前のその異常な夢、願望、願いが獏には魅力的だった。だが、それがオートマトンのハクに憑いちまった」


 そう、エラーコード:九十九のせいでな。


 埠頭に生暖かな風が吹き込む。

 嫌な風だ。


「僕のせいなの……? 僕が……ハクを化け物にしたの……?」

 

 その目は困惑に満ちていた。

 まるで救いを求めるような目。

 だが、私は嘘が苦手だ。

 ただ、うんとうなずくしかできない。


「僕が……ハクを……」


 と、何かが投げ込まれ、私達の目の前に落ちた。

 これ

 閃光弾―――!!


 けたたましい音と光が当たりを包む。 

 そして、どこに隠れていたのか武装した人間が、オートマトンが現れた。

 

 Cセキュだ。


「ターゲット確認!! 打て!!」

「バカ!! 子供がいるんだぞ!!」

 

 取り囲んでいたCセキュ達は一斉に射撃を始めた。


 凄まじい火力。

 軽いテロ制圧戦だ。


「射撃やめ」


 静寂。

 土煙が立ち込める。

 キイチロウとハクの生存は分からない。

 だが、絶望的なのは分かる。

 

 最悪だ。

 こんな事になるなら―――

 もっと早く気づいていれば―――

 

 そう思った。

 と、同時に。


 取り囲んでいたCセキュの部隊が吹き飛んだ。

 

 土煙の中から現れたのは、ハクだった。

 一段と身体は膨れ、一段と化け物じみている。

 


 ―――だが、

 ―――そんな彼の腕の中で

 ―――キイチロウは眠っている

 ―――その姿はまるで

 ―――子犬を守る母犬のようだ




 ―――Ver1.8 機械が見た夢は 終

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