Ver1.7 真実を飲み込んで

 爆発騒ぎで騒然としている橋―――

 の下。


「ぷはっ!」


 真っ暗闇の海の中をなんとか泳ぎきり、対岸の埠頭にたどり着いた。 

 残っている微かな体力を使って海から上がり、荒い呼吸を整えながら地面に横にな

 る。

 もう動けん。


「あの野郎……次あった時にぶん殴ってやる」


 なぜ爆発炎上した車から生還できたのか。

 とても不思議に思うだろう。

 だが、それはとても簡単な話だ。

 カゲミヤの手によって外に投げ飛ばされ、橋の下に落ちたからなのだ。

 ええ、本当に死にそうでした。


「大丈夫ですか……?」


 横になっていると、聞き慣れた声が聞こえ、顔を上げる。

 そこにはキイチロウが心配そうにこちらの顔を覗き込んでいた。

 (生きてたんだ)


「大丈夫ではない」

「そ、そうですか……」

「なんで生きてんだお前?」

「カゲミヤさんに抱えられて……気づいたらここに……」

 

 なんやねんそのVIP待遇。


「……で、そのカゲミヤはどこ?」

「案内は終わったから帰るって言ってました」

「…………」


 ―――なんかもうキレるのもダルいわ


「まぁいいや……とりあえず、オートマトンを探そうや」



 埠頭の中を歩き回る。

 そんなに大きくはないのだが、コンテナが高く積まれているせいで見通しが悪い。

 身を隠しにはもってこいなのは確かだ。


「なぁキイチロウ」

「はい?」

「ハクを助けて、どうすんだ?」

「どうするんだって……どういう意味ですか?」

「ハクが憑かれていたとしても、殺人を行ったことには変わりはない。例え正気に戻ったとしても、破壊処分命令は免れねーよ」

「…………どんな手を使っても助けます」

「うん、やっぱりおかしいなお前」

「ハクは特別なんです。ほっといて下さい」


「いや、ハクの話じゃねーよ。両親の話だよ」


「…………」

「依頼の時からずっとだ。一切両親の話がお前から出てこない」

「…………」

「両親が殺されたというのに、お前が心配しているのは殺した方のオートマトンだ」

「――――」

「お前……何か隠してるな?」

「隠してません……」

「隠してんだな」

「何も隠してません!!」


 キイチロウの声が埠頭に響き渡る。


 ―――さて、どうしたものか


 この反応を見るに根本の原因は別にある。

 それが分からないまま祓ったところで多分効果はない……。

 思案していると、後ろのほうで何かが落ちる音がした。

 振り向くとそこには―――


「きーくん……?」


 件のオートマトンがこちらを覗き込んでいた。


「ハク!!」

「どうしてここにいるの……?」

「助けに来たんだよ! ほら、巫女さんを呼んだんだ。これで祓ってもらえばきっ

 と……!!」

「ボク……治るの?」

「治るんだよ! そしたら、また一緒に住めるんだよ!!」

「……それは、無理だと思う」

「…………え?」

「もう、きーくんとは一緒に住めない」

「大丈夫だよ! 祓って貰えば絶対!!」

「だって……」


 そう言うと、ハクは隠れていたコンテナから見を晒す。

 その体は―――

 異常なまでに肥大し

 異常な角が生えていた。

 それはまるで―――


「獏か……」


―――Ver1.7 真実を飲み込んで 終

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