Ver1.6 手荒な夜

「ハクは大丈夫でしょうか……?」

 

 モリヤマが用意してくれた車の中でキイチロウは問いかけて来た。


「不安か?」

「さっきの話を思い出すと……正直」


 ―――機械と人間を食べ、膨れ上がる化け物

 

 それが今のハクだとしたら、助けるという目的はどうなるのか。

 子供でも疑問に思うことだろう。


「大丈夫かどうかって言ったら、大丈夫ではねーだろうな。憑かれてんだから」

「でも、助けられますよね? だって、憑かれてるだけですもんね?」

「それは……どうかな」


 と、車が急に止まる。


「どした?」


 運転席に座るモリヤマの部下、カゲミヤに問うた。


「規制線です」


 前を見ると、渋滞の奥にCES・セキュリティのマークを付けた武装警察が見えた。

 町を繋ぐ橋の前でバリケードが作られている。


「件の埠頭はこの先になります」

「おい、まさか……」

「はい、お探しのオートマトンの件だと思われます」

「やばいな……Cセキュに先を越されちまったら……」

「打つ手は無くなりますね」

「どうにかしねーと……」

「手はありますよ」

「え?」

「少々荒いですが」


 と、カゲミヤはアクセルを思い切り踏み込んだ。

 車は急発進し、目の前の車に―――衝突した。


「何してんだお前!?」

「ご心配なさらず。特殊装甲車なので、簡単には壊れません」

「そうじゃねーよ!!」


 カゲミヤは、なおもアクセル踏み続ける。

 何台もの車を押しのけ、前へ前へと進んで行き―――


「抜けます」


 ついに、渋滞を突破した。

 ―――が


「この先は規制線があんだろうが!!」


 眼の前に迫るCセキュの規制線、バリケード、検問所。

 装甲車がずらりと道を塞いでいる。


「どうする気だよ!?」

「突破します」

「いや、突破って、突っ込む気か?」

「突破ですから」

「むちゃくちゃだお前!!」


 そんなこんな言い合っているうちに、車は道を塞ぐ装甲車にぶつかり―――

 ―――空を飛んでいた。


 すごい。

 やばい時って本当に世界がスローモーションになるんだな。

 ああでも、今の時代ならこれもオートマトン手術でいつでも体験できるのか。


 などと人体の不思議を感じている間に、車体は道路に突き刺さり、激しく横転。

 暫くして、ドカンと爆発音が響いた。

 どうやら車に火が引火したようだ。

 

 Cセキュは燃え盛る車体を遠巻きに見つめるほかないようだった。


―――Ver1.6 手荒な夜 終

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る