Ver1.5 膨れる機械

 狐憑き―――


 読んで字の如く、狐の霊が憑くこと。

 身体の自由を奪い、狐のような動きを見せる。


「迷信ですよね……?」


 隣にいたキイチロウが恐る恐る聞いてきた。


「しゃべんなって言ったろうが」


 まぁ、無理もないか。


「迷信だとしたら目の前の状況はなんだよ」

「動作不良というか……エラーというか……」


 キイチロウは何かに気づいたようにハッとした顔をする。


「エラーコード:九十九……」

「そう、エラーコード:九十九はこういう時に出るんだよ」


 と話していると、女性型オートマトンはこちらに飛びかかって来た。


「いよいよ獣だな、おい」

 

 素早くキイチロウをモリヤマの方へ突き飛ばす。

 が―――どうやら狙いは私だったようだ。


 人型の金属が生身の人間にぶつかったらどうなるか?

 普通に死ぬ。


「普通ならな」


 飛びかかってきたオートマトンは空中で静止していた。

 私がそうさせた。

 私の巫術で。


「お前が金属片なら、私を殺せたかもな」


 拳に力と術を込める。

 そして、腹めがけてぶち抜く。

 純度100パーセントの機械なら私の拳は砕けているだろう。

 だが、相手が憑かれている機械なら、私の専門領域だ。


 女性型オートマトンは勢いよく吹き飛んでいった。


「うう……」


 小さなうめき声を上げる。

 女性らしいうめき声だ。

 モリヤマは急いでオートマトンに駆け寄った。


「ユキヨ!」

「親分さん……? 私……どうして……」

「いいんだ……今はゆっくり休め……」


 モリヤマが近くの部下に目配せすると、ユキヨというそのオートマトンを連れ出して行った。


「騙したりして済まなかったなクジ……」


 騙してるって意識はあったのか。


「別にいいよ。気が動転してたんだろ」

「ああ、あんたを疑ってたわけじゃないが、初めて遭遇してな……必死でよ……」

「まぁ、しかたねーさ。それより情報の件、教えてくれるか」

「トナンとグランドの堺にある東埠頭だ」

「他の場所は? 似たような事件が無いわけじゃないだろ?」

「間違いなくその場所だ。ただし、気をつけて行けよ」

「へぇ?」

「もしかしたら、もう知ってる姿では無いかも知れねーからな」

「誰かに改造されたのか?」

「違う、デカくなってるのさ。機械を、人間を食ってな」

「食って、デカくなる……? 機械が……?」

「ああ、あんなオートマトン、生まれて初めて見たぜ。まさに化け物だった」


 そう語るモリヤマは少しばかり震えているように見えた。


 それは無理もないことだと思う。

 この世はインターネットと機械が支配する世界。

 全てが物質化され、数値化された世界。

 知らないことは何もない。

 それがこの世界のはずだった。


 化け物。

 彼の恐怖と困惑を表す正しい例えだ。


「……膨れる機械か」


 事件の終わりは近いようだ。


―――Ver1.5 膨れる機械 終

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