Ver1.4 トナンの怪

 大きな地下空間。

 無操作に立てられた構造物の数々。

 道に転がっているのは得体の知れないゴミと死体。


 これがトナンだ。


 そんな混沌とした空間にひっそりと佇む神社。


 その中で私は―――


「いったぁ!?」


 人をぶん殴っていた。(オートマトン手術済みは人じゃないか)

 キイチロウは唖然としている。(大人の喧嘩は豪快だからな)


「おい、クジ! 初手でグーは無しだろ!!」

「うるせぇ。銃口突きつけてきたのはてめーだろ」

「悪かったって。今ちょっと厳戒態勢なんだよ」

「おめーらは打たれても大したことねーけど、私は即死なんだよ。気をつけろ」

「アホ! 手術しててもイテーんだぞ!!」

「イテーで済まねーんだよこっちは!!」


 言い終わるのと同時にまた殴った。(ムカついたので)


「おめぇの拳は何製なんだよ……撃たれるほうがマシだわ……」


 スキンヘッドの老人、モリヤマはそう言いながら身体を起こした。


「魂込めて殴ってるからな」

「それだけでその威力なのか……? ちょっとおかしすぎるだろ……」


 ……まぁ、まだ分からんから言わないでおこう。


「で、なんの用なんだ? 子供なんて連れて。お前の息子か?」

「……もう1回殴ってやろうか?」

「冗談だよ!! だから殴るな!!」

「……最近、不可解な事件を聞いてねーか?」

「トナンじゃ、不可解な事件しかねーからなぁ……なんとも」

「例えば……人食いオートマトンとか」


 サングラスを拭くモリヤマの手が止まった。


「まぁ……聞いてはいるな」

「その情報をくれ」

「見返りは?」

「は? 急にどうした?」

「普通の事だろ? 何かを求めるなら、こちらの求めるものを渡す」

「いつもとちげーじゃねーか態度が」

「いつもが特別だったと思え。これが普通だよ」

「トナンの連中と金のやり取りをしたらお縄だろうが」

「それはそうだ」

「んじゃどうしろって……」


 と、言いかけたところで気づいた。

 モリヤマが求めているものが。

 今までの関係性を変えてまで、求めているものが。


「……たぬきめ」

「交渉成立でいいな?」

「さっさと終わらせるから早くしろ」


 モリヤマが手を挙げると、外で待っていた男達が、何かを抱えて入ってきた。

 布は被されているが、人型だ。

 ゆっくりと、床に下ろし、布を取り去ると―――


「女性型オートマトン……か」

「俺の愛人だ」


 何か言いたくなったが飲み込んだ。

 (決して汚い言葉ではない)


「……で?」

「見てれば分かる。ほら、来るぞ」


 女性型オートマトンは苦しみ出した。

 喉をかきむしり、舌を出し、獣のように唸りだす。


「こりゃ……狐憑きか」


―――Ver1.4 トナンの怪 終

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