Ver1.3 エラーコード

「オートマトンが食ったってのか? お前の両親を?」


 移動の車の中でキイチロウは事件の真相を話してくれた。


 ―――ハクと言われるお手伝いオートマトンの事

 ―――生まれた時からずっとキイチロウをお世話していた事

 ―――そして、そのハクが両親を食べてしまった事


 ニュースで報じられているよりも悲惨で、奇妙な事件だ。


「そのハクっていうのは完全なオートマトンか?」

「はい、タロース社の純正オートマトンです。型は古いですが……」

「となると、消化器官システムのエラーではないか……Cセキュやシュリには連絡できないわな、それは」

「はい、どちらに連絡しても、きっと破壊処分だと思います」

「話を聞いてると、急におかしくなったみたいだけど、兆候はなかったのか?」

「兆候はなかったと思います……本当に突然で、変なエラーコードが出てきて……」


「エラーコード:九十九」


「そうです! それです! 知ってるんですか?」

「知らなかったら、お前は私達に連絡してこないだろ? 車、止めてくれ」


 車はゆっくりと路肩に停まった。


「私はここで降りる」

「待ってください。僕も連れてってください!」

「嫌だ」

「なんで!!」

「信じられね―くらい危ないからだ」

「それなら警備をつけます」

「意味ないね」

「どうしてですか?」

「場所がトナンだからだ」


 キイチロウは言葉に詰まった。

 運転手も、うろたえているのが分かる。

 トナンにロイヤルの坊っちゃんが向かったらどうなるのか。

 それは、卵を落としたらどうなるかという問題と同じだ。

 悲惨な事になる。


「安心しろ。依頼はちゃんと全うするよ。逃げたりなんてしない」

「…………それでも」


 車から降りようとする私に向かって、キイチロウは声を振り絞る。

 小さな身体で、震える声で。


「それでも……行かせてください」

「メリットがなさすぎるなぁ。依頼人が死なれたら私も困るし」

「…………」


 完全に黙ってしまった。

 思いつきだったんだろうなぁ。

 まぁ16位の子供に論理的に思考しろなんて無茶な話だしな。

 ……仕方ない。


「分かったよ。連れてってやる」


 キイチロウは分かりやすく喜んだ顔をする。

 (運転手さんはめっちゃ止めたそうにしてるけど、相手は時期社長だから止めれんよなー)


「但し、これだけは守ってくれ」

「はい、なんでも守ります!」

「1つ、喋るな。2つ、耳を貸すな。3つ、手を離すな。いいな?」


 キイチロウに手を差し伸べる。

 ゴクリと生唾を飲む音が聞こえてきた。

 手を握るキイチロウ。

 震えている。

 小さく。

 怖いんだろうな。

 それでも、友人を探したいのか。

 なんともまぁ……健気で美しいこと。

 ただ、その健気さを。

 トナンが汚さなければいいけど。


 私達は灼熱地獄の地上から。

 血も涙もない地下へと向かう。

 

 ―――トナン

 

 ある人は言った。

 そこには何も無いと。

 ある人は言った。

 そこには何でもあると。


 そして、その二人は。

 もう死んでいた。


―――Ver1.3 エラーコード 終

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