Ver1.2 巫巫道堂

 巫巫道堂事務所。

 この街で一番マシな(治安が)オフィス街にある小さなビルの3階にある。

 ノスタルジーとファンタジーが同居する胡散臭さの塊のような事務所。

 必要な設備は充実。(全部ジゥの持ち物)

 酷暑でも快適な設備。(これもジゥの)

 飲み物、食い物、くつろげるソファー。(これも)


「じゃなくて、なんだよこの状況」


 思わずデカイ声を出してしまった。

 だって、状況が意味不明なんだもの。

 

 まず、私はここにジゥとお茶をするために来た。

 なのに、ジゥはもういない。

 お茶すらしてない。

 そして、極めつけは―――


「誰だよこいつ……」


 眼の前に座る子供。君島キイチロウ……というらしい。

 (ジゥがそう言ってた)

 当然ながら面識もないし、身内でもない。

 事務所に入ってきた時からずっといる。(座敷わらしかよ)

 妙に身なりがいいのがムカつくわ。(こいつロイヤルのガキだな)


 と、顔を上げてみると、キイチロウはテレビを見つめている。

 テレビからはニュースが流れている。


 ―――オートマトンによる殺人事件

 ―――被害者は君島カンパニーの社長夫妻

 ―――息子は無事

 ―――殺人容疑のオートマトンは行方不明


 悲しいニュースだ。

 だがこんな事件、この世界じゃ空気を吸うのと同じくらいありふれている。

 全然珍しくもな―――


 ―――君島……?

 

 同姓、身なりの良さ、息子……

 これだけの情報があればどんなバカでも流石に気づく。

 今目の前にいる子供が、このニュースで流れた夫妻の子供だ。

 なら尚更なぜここに……?


「あの……」


 キイチロウはやっと言葉を発した。

 その声は涙を堪えるためなのか、震えていた。


「依頼は……引き受けてくれるという事で、いいんですか……?」

「え? 何も知らんけど……?」

 

 全く分からないのでそのまま返答する。

 すると、キイチロウは身を乗り出してきた。


「受けて貰えないってことですか!? 何が足りないんですか!? お金ならあります! いくらでも!!」

「いや、待て待て待て。そういう事じゃねーんだ。まず、私は依頼の件なんて知らないんだよ」

「え……でも、確かに依頼を受理して頂いたと思うんですが」

「……………誰に依頼した?」

「タオ・ジゥさんにです。そしたら、今日ここに来てくれと……」

 

 ―――あーはいはい

 ―――理解したわ完全に

 ―――つまり

 ―――あれだ



 ―――あのクソ女、ハメやがったなぁぁぁぁあああああ!!!!



 ジゥは自分に来た依頼を私に委託したって事だ。

 無断で、勝手に、何も言わずになっ!!!

 ぜってーあいつ通常料金より高値で依頼受けてるよ!!

 全部終わった後に、報酬ですとか言ってちょっと色つけて渡してくるよ!!

 少し多めに払って上げてるように見えて、元の依頼料がたけーから大幅プラスとか

 だよ!!

 クソがしね!!!

 

 頭の中でジゥへの罵倒が止まらない。

 するとキイチロウは、床に跪いた


「お願いです!! いくらでも出しますから依頼を受けてください!!」

 

 子供が土下座している。

 必死な土下座だ。

 その姿を見て、怒りはゆっくりと収まっていった。

 だって、子供がこんなに必死なのに、私は何にキレてんだってならない?

 ごめんね、キイチロウ君。金の事しか考えて無くて……。


「とりあえず、分かったから……依頼の内容教えてくれ」

「ありがとうございます!!!」


 本当に嬉しそうな顔をしている。

 その潤んだ目で私を見ないでくれ……。

 クズな大人であることをまざまざと感じちゃうから……。


「依頼したいのは、オートマトンの捜索です」

「お前の両親を殺したオートマトンだな?」

「そう……です……」

「あー……すまん。公的機関じゃねーからデリカシーとか期待しないでくれ」

「いえ……そうではなく……」

「しかし、なんでウチにこんな依頼したんだ? ぶっちゃけ、CES・セキュリティかシュリハンドク・セキュリティのほうが丁寧な仕事すると思うぞ」

「それは……僕の依頼がオートマトンの捜索だけではないからです……」


 そう言われて、意味が分かった。


「ハクを……友達を助けてください!!」


 これは、巫巫道堂の案件なのだ。


 電子の海で魂を見つける仕事が、始まる―――


―――Ver1.2 巫巫道堂 終




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