恋のみそかごと

小雲月

二人の秘密(三浦春瑠編)

私の名前は三浦春瑠みうらはる、塾に通っているごくごく普通の高校二年生。ただ一つの点を除いては…

 塾の課題に頭を抱えていると、隣に座っていた私の女神がつやつやな黒いショートボブをなびかせながら立ち上がり、一枚のプリントを先生に渡す。

 「先生、課題出来ました」

 「おぉ早いな。さすが神崎」

 神崎柚津。美人で頭がよく、クールだけど根は優しい私の理想の人…比べて私はバカで根性腐ってるし、取り柄が運動しかない。とても釣り合う相手ではない。

 それに……いやいやこんな事考えてる場合じゃない。目の前の課題に集中集中。

 「どうしたの詰まってるみたいだけど」

 「えっ?!あっいい大丈夫!自分で出来るから!」

 そう言って私はプリントを見られないように腕で囲った。

 教えて欲しい、でも柚津に教えられたら逆に集中出来ない…!!と頭を悩ませながら柚津を見る。

 「それはどういう感情の顔?」

 「柚津やっぱr…」

 「じゃあここまでなー残りは宿題だぞー。居残りするやつ以外はさっさと帰れー」

 そう幸せな空間をぶち壊した先生に怒りを覚えつつも「うんん。なんでもない」と断った。

 「じゃあまた木曜日」

と柚津は鞄を肩にかけ、私に手をふる。

 私達は学校が違うから月曜日と木曜日の週二回、塾の時のみ会える。

 「またね」

 そう私も手を降って、柚津を見送る。と違和感に気づく。

 私は颯爽と筆箱とプリントをしまい、鞄を抱え柚津の後を追う。

 「おぉぉいぃぃ柚津ぅぅ!!まてぇぇ!いつも一緒に帰ってるだろ!何で今日は置いて行く!?」

 そう柚津の背中にダイブすると、真面目な顔で

 「先生と居残りするのかと思って」

 「先生と居残りなんてやだよ!いじわるー!」

 そんな意地悪なところも全てが好き。でも、きっと高校を卒業したら塾にも通わなくなる。そしたらこの恋も終わる。

 赤信号で足を止めた時、私は恐る恐る柚津に質問をなげた。

 「高校卒業したら、私達ってもう会えないのかな…?」

 そんな事を考えると自然に涙が溢れる。それを必死に隠そうと俯くと、頭に手をポンと置かれる。

 「春瑠ちゃんはどこまでバカなのかなー?まだ卒業まで約二年あるんだからそんな事今考えなくていいの」

 信号が青に変わり、柚津の手が頭から離れていく。

 冷たく発せられたその言葉はどこか温かかった。

 私は後を追うように小走りで横断歩道を渡りきると、突然腕を引っ張られ柚津にぎゅっと抱きしめられる。と柚津は少し震えていた。

 いきなりのことで頭がこんがらがり、気づくと名前を呼んでいた。

 「ゆ…柚津…?どうした、の…」

 「寒い」

 なんだそんなことか。

 ドキドキしていた気持ちが一瞬で収まり、私は腕を振り払うと、自分のカーディガンを脱ぎ柚津の肩にかける。

 「び、びっくりした…そうならそうと言ってくれれば貸すのに」

 「でもこれいいの?すぐ返せないのに」

 とカーディガンの袖を見る。

 「いいのいいのまた木曜日に返してくれれば。その時はちゃんと自分のもって来なさいよ」

 すると周りが暗くよく見えなかったが柚津が微かに笑った気がした。

 「ありがと。助かる」

 すぅー…可愛い。たまに見せる笑顔超可愛いんですけど?!やばいそのことしか考えられん!!柚津の笑顔で頭がいっぱいになっていると「じゃあ私こっちだから」と柚津は道を左に曲っていった。

 「ほいほーい、じゃ!」と私は右に曲がる。

 どこに住んでるんだろう。どこの学校なんだろう。好きなくせに私は柚津のことを何にも知らない。

 「はぁ…」

 ため息をつきながら歩いていると家の玄関に着く。鍵を取り出し「ただいまぁ」と扉を開けると「おかえりー」と姉が顔をのぞかせる。

 「お風呂沸いてるから先入っていいよー。疲かれてるっしょ?」

 とお風呂へと繋がる廊下を指さした。

 「あーうん…」

 いつもより元気がない私を見て姉さんはちょこちょこと靴を脱ぐ私によってくる。

 「ねぇー?今日は彼女と進展あったのぉー?」

 そう私の今一番痛い所をついてくる。どんどん怒りが溜まっていき、

 「うっさい!姉さんには関係ないんだよ!先お風呂入ってていいからさー、黙っててもらえるかな?!」

調で自分の部屋へと駆け込んだ。

 「あーあれは何もなかったな」


 自分の部屋に入りバタンと大げさに扉を閉めると、ベッドにダイブした。

 「うぅ………どうしよ、どんどん取り返しのつかない事に」

枕を顔に押さえつけながら足をバタバタさせる。

 本当の事を言いたい。言いたいけどもし言ったら今の関係が崩れるんじゃないかと思うと言い出せなかった。

 『卒業まで約二年あるんだからそんな事今考えなくていいの』

 そんな言葉が蘇るが、もう会えなくなると思うと嫌でも考えてしまう。

 私…ってもう塾じゃないからいいか、俺はゆっくりとベッドから起き上がり鏡に向かう。

 鏡の中の自分と目を合わせながらウィッグを取る。そしていつもの、本当の自分に戻る。

 どうせ高校卒業までの想い。本当の事を話せば今の関係が崩れるかもしれない。そうなるぐらいなら最後まで……

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