107.ティル・ナ・ノーグの精霊達

クラン『ティル・ナ・ノーグ』は少しばかり特殊なクランだ。


リーダーのシオンは謎の多い人物で、彼のことを正確に知る者は非常に少ない。更に謎なのが彼の連れている魔法生物達である。


現在、『トリON』内でテイマーや精霊使いのような魔法生物を使役できるジョブは確認されていない。なので彼が何故魔法生物を連れ歩いているのかは一切の謎だった。


もちろん、公式に質問をした者達は少なからずいる。しかし、回答はすべて『トリONはあらゆる可能性を秘めた異世界ゲームです。すべては女神の心のままにあり、我らはその裾裳に触れているだけに過ぎません。その術を扱える者がいる限り、それは確かに存在しているのです』という抽象的なものしか得られなかった。


トリON最大の情報クランですら、その情報はまったく得られていないというのだから不思議な話である。一部のユーザーの中には『開発が何かしらの制限をかけているのではないか?』『今後実装予定の機能をテストしている』『開発の身内で接待プレイ』等と言われているがとある攻略動画にシオン本人が登場した事で、益々謎が深まった。


唯一わかっているのは、彼の強さが『規格外』だという事だけだった。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


『さぁ、今日もお掃除を始めますよ!』


屋敷妖精ハウスメイドのスレアは拠点における家事全般を担っている。トリONでは、定期的に清掃をしないと部屋が汚くなるという妙にリアルな仕様になっているのだが、スレアは毎日掃除をし各部屋の寝具類を定期的に干したり、使っているリネン類を洗濯しているのでシオン達はいつでも快適な拠点利用が出来ているのだ。


ちなみに、食材管理やレシピ登録された料理も作ることが可能なので他の精霊達の食事もスレアが作っている。


シオンは気付いていないが、精霊達は毎日3食とオヤツまで食べている。シオンが創り出した精霊である彼らは、ゲームの中の存在なので食事は必要ない筈だが、何故食事をするのかは誰も知らないのである。


そんなスレアが頭を悩ますのは、職人精霊ドワーフのドフィ親方の部屋の掃除だ。ドフィ親方の部屋は工房のようになっていて、様々な道具類や作りかけの「何か」がアチコチに散在している。


スレアは掃除をしたいのだが、ドフィ親方は『ここにあるものは制作途中じゃから触らんでくれ』と言い張って掃除をさせてもらえない。しかし、スレアの方が一枚上手で『そんな事言うとお酒減らしますよ!』の一言で、ドフィ親方の工房もしっかり掃除するのであった。


庭師ノームのムートは、シオンが庭の管理のために喚んだ土の精霊族だ。『庭師ノーム』と表記されるのはシオンが土いじりなら『ノーム』でしょ!というフンワリしたイメージしか持っていなかったので、そのようになっていた。


ティル・ナ・ノーグの庭は外部からは見えなくなっているが、実はとんでもない事になっている。というのも、シオンが各地で拾ったり貰ったりした種子や苗木を、ムートがせっせと育てているからである。


庭の中心には大きな木が植えられている。これはシオンが以前入手した『世界樹の枝』が根付いて成長したもので『聖なる大樹』と呼ばれる貴重な樹だ。その周りには色とりどりの花や薬草類があり、素材の宝庫となっている。


庭では野菜も育てていて、収穫した野菜はスレアが美味しく調理をしてくれている。


ムートが育てている庭に水を撒いているのは水精霊ウンディーネのアクアだ。彼女はティル・ナ・ノーグの中でも比較的新しく入った精霊で、アケイアの森の世界樹に薬を撒く為に喚び出されたのだ。


シオンは一時的に喚んだだけのつもりだったのだが、アクアが送還を拒否した為にこうして他の精霊達と暮らすこととなった。


拠点にいる精霊達は何かしらの仕事をしているので、アクアもやれることを探した結果、庭の水やりやスレアの掃除や料理の手伝い、ドフィ親方の道具作りの手伝いをしている。


案内妖精ナビゲーターのナヴィと、神狼フェンリルのシルバは常にシオンと行動を共にしている。シオンが迷わずに目的地まで行けるのも、弱点を的確に突いて敵を倒せるのも、一人でも余裕で行動できるのも、全てはこの2体が居るからである。


自由気ままなシオンのように、精霊達もまた、自由気ままに今日を過ごしている。

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ゲームからログアウト出来なくなったので、思い切って満喫してみようと思う。【旧題:俺だけログアウト出来ないオンラインゲーム…ってそんなのアリ?!】 高井真悠 @Miju_0116

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