拾ったのは......

香月茉梨

拾ったのは……

終電逃しちゃったか……。上司のやつめ、大量の仕事を押し付けて帰りやがって。雨だし、タクシーで帰ろうとも思ったが、そんなお金はないので、傘をさして歩いて帰る。

 歩いて1時間。近くの公園を通りがかると、雨なのに何やらネコの鳴き声がする。気になって近づいて見ると、ネコだった。ネコなのに逃げないことを疑問に思いながらよく見ると弱りきっていた。首輪をしているから、飼い猫であるのだろうか。周りに飼い主らしき人はいないし、可愛そうだったので連れて帰ることにした。家に帰って改めて見ても、ぐったりしている。どうしたらいいのかわからないので、とりあえずグーグル先生に頼ることにする。でも、知識のない私にはこの子がなんの症状なのか分からない。

 深夜に開いている病院が近くにないので、朝まで面倒を見て、病院に連れて行こうと思う。唯一の救いは明日私の仕事が休みだったということだろう。

 子猫をよく見るとつけている首輪がきつそうだ。飼い主がつけてあげたんだろうけど、苦しそうだから外してあげようとしたがきつくとめられすぎて外れない。こんな状態なら、さぞ苦しいだろう。仕方ないので、飼い主に申し訳ないとも思いながら、ネコに傷をつけないようにハサミで革の部分を切った。


 すると、抱いていたはずのネコは人になっていた。びっくりして思わず、突き飛ばしてしまった。

「イッテ……」

「えっ誰?鍵閉まってたよね。どうやって入った。ネコはどこいった?とりあえず警察を呼ばなくちゃ」

と私がワタワタていると、謎の男が話しかけてきた。

「あのー。さっき助けてもらったネコなんですけど……」

「そんなわけない。てかなんでさっきまでネコがいた知ってるの?不審者じゃん警察警察」

「そんなわけがあるんですよ。俺の頭を見てもらっていいですか?」

恐る恐る男の頭を見ると、人間ではありえない猫耳がついていた。よく見ると尻尾まで生えている。私は理解が追いつかず、固まってしまった。私が理解したことに気づいたのか、彼は自己紹介をしだした。

「俺の名前はノア。人種としては、獣人だ。詳しく言えば、猫獣人かな。だから、猫の姿にも、人間の姿にもなることができる」

「獣人ってほんとに居たんだ。ファンタジーの世界のものかと思ってた」


「この世界には獣人は結構いるぞ。ただバレないようにしてるけどな」

「そうなんだ……。てか、なんでノア?だっけ、はボロボロの状態だったの?」

「ちょっと散歩してたら、獣人を研究している人に見つかって、捕まってたんだ。それであの首輪をはめられて、人間に戻れないようにされてた」

「そうだったのか……」

「まぁ命からがら逃げてきたのはいいが、自分じゃ外せなくてな。苦しんでるとこに君が来たって感じだ。てが獣人と分かったけど何もしないのか?」

「なんもしないの?って?」

「人間はみんな俺が獣人って分かると襲ってきた。殴る蹴るは当たり前だったし、いろんなことをされた。持ち前の治癒能力で今はどうにもなってないけどな」

「そんなことできるわけない。ノアだって大切な1人の人だよ。あっ人ではないか。そんなことはおいといて。大切な命だよ。大事にしなきゃ」

 私がそう言うと、彼は泣き出した。急に泣き出すので、慌てていると

「そんなこと言われたのはじめて。俺と一緒に住も?」

と言ってきた。

「…………ん?なんていった」

「そんなこと言われたのはじめてって言ったけど」

「いや、そのあと」

「えっ俺と一緒に住もって」

「それそれ。今の流れでどうしてそうなる?」

「今ならうんって言ってくれると思ったんだけどな。ばれたか」

「いやいや。そうはならん。さすがに私でも気づくわ」

 そう言うと、彼は

「えーだめなの?」

と猫になって甘えてきた。猫好きな私にそれはまずい。こんなことをされたら断れる理由ワケがない。

「いいよ」

と、仕方なく言うと、ポンッと人の姿になり、

「ヤッター」

と抱きついてきた。この無自覚イケメンめ、気になるじゃないか。

「抱きつくのはやめて。はずいんだが」

「いやぁ。うれしいなと思って」

どうやら、話の通じないタイプの人間らしい。あっ別に人ではないか。(2回目)


「てか、この狭い部屋のどこに住む気?お金ないから引っ越せないけど」

「働いてるから、お金はある」

えっ働いてるの?びっくりなんだけど

「どこで?」

「駅の近くのネコカフェ経営してる。ネコと話せるから、都合がいいし。ネコ耳つけてることにすれば、本物だけど隠さなくてんだ済むから」

「カフェ経営してるの?すごっ。てか、駅の近くってことはあの、かの有名なワフテリア?」

「知ってたんだ。そうだよ」

「一回行ってみたいと思ってるんだよね」

「おいでよ。歓迎する。なんなら、俺ん家こいよ」

「えっ?」

「金はあるし、ネコがいるからそこそこ広い。なんなら、うちで働くか?俺1人だときつくて。もちろん無理にとは言わない。会社もあるだろうしな」

「会社をやめることは正直全然問題ない。ずっとやめたいと思ってたし……」

「じゃあ来てくれるってこと?」

ノアは目を輝かせてこっちのことを見てくるが、私は首を横に振った。

「ううん。働いてみたいのは山々なんだけど、今まで誰も雇わなかったことで有名なワフテリアが急にこんなただの人を雇ったってなれば、問題じゃん?」

「嫁なら問題ないだろ?」

「嫁ならね。って嫁?誰が?」

私が驚いていると、彼は跪いて

「一目惚れしたんだ。俺と結婚を前提に付き合ってください」

「はい」




 私は会社を辞め、ワフテリアで働くことになった。あの上司にはグチグチいわれたがそんなことは知らない。私は幸せな生活を送るのだ。

 ワフテリアでの生活は楽しい。突然働くことになった私を常連さんは優しく受け入れてくれ、今では仲良くなった。大好きなネコに囲まれて幸せな毎日を過ごしている。なにより幸せなのは、ノアとの生活だけどね。

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拾ったのは...... 香月茉梨 @kozukimari2005

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