第5話 晩餐

 権藤と男が出て言って紗江は権藤が座っていた席に座った。


「真紀さん。すみません。ビールを1本貰ってもよろしいですか」


「かしこまりました」

キッチンにいた中年の女性が盆にビールとグラスをもってきた。


「三上さんも一杯いかがですか」


「はい。いただきます」

紗江がグラスを修一に渡し両手でビールを注いでくれる。


「ところで三上さん。先ほどのお答えはなぜですか。あんな大金を手に入れる機会は、差し出がましいですがこれから一生ないと思いますよ」

紗江がグラスを顔まで上げ口に入れる前に言った。


「あなたの仰る通りかと思いますが、あのお金を私が貰っても、決して私のためにはならないでしょう」


「どうしてですか」


「先ほども言いましたが、分相応ではないからです。私はそんな大金を稼いだこともありませんし、使ったことなどもちろんありません。万が一私がそれほどの金を稼げるとしたら話は別ですが、決してそうではありません。自分の範囲を超えています。棚から牡丹餅のような金は私個人は受け入れることが出来ません。それに、私は以前会社で精神を病みまして会社を休職した経験があります」


「差し支えなければご理由は?」


「はい。今は定時に出退社する会社員生活ですが、以前は本社に努めてまして、毎日残業がある生活をしてました。自宅はM市ですが、東京までは新幹線で通ってましたが、新幹線の終電はあまり遅くありませんので、乗れない時にはホテルに泊まってました。それは月に4~5回はありました。仕事は多忙を極めました。そんな時に、私の親友が業務上横領で自殺したんです。」


「自殺?」


「はい。簡単に言うと会社の金を横領しました。正確な金額は分かりませんが、億近かったという噂でした。私の親友は私と同じ会社で、私は営業、親友は経理を担当していました。仕事の多忙さと親友の死をきっかけに夜は眠れなくなり、感情が抑えられなくなり、家庭では家庭内暴力まがい、会社では部下に怒鳴り散らしていました。そんな時に限界を迎え会社で倒れ、病院に入院して診断された結果、躁うつ病でした。」


「大変でしたね」


「金ではなく、自分の健康が一番だとその時に気づきました。もちろん金は必要ですが、金のために仕事をして体を壊しては何のために仕事をしているのかわかりませんし、分相応でない多額を得ても、自分にコントロールする力がないと最悪の結果をまねきます。それに、時間ですね。会社に束縛される時間がもったいなく感じました。その結果、会社に希望を出し、地元の支店に異動させてもらいました。今は正直仕事に生きがいは微塵もありませんが、自分の体調を考えると満足しています。因みに給与は本社にいたころの2/3になりましたが、私も家族も不満はありません」


「それが理由で先ほどの回答だったのですね。答えずらい質問に答えていただきすみません。それでは、食事をとりましょう。新幹線の時間がありますので、あまり時間はありませんが、真紀さんの作る料理は絶品ですよ。このお寿司など、特別に出前してもらいました」


改めてテーブルを見ると、寿司、刺身の盛り合わせ、天ぷらなど、修一の好物ばかりが並べられている。


「偶然でしょうが、私の好物ばかりです。いただきます


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