33 アルワンの恋慕
取り急ぎ、アルワンはフフシルの村から徒歩で街道沿いの村に戻り、宿に預けていた馬を駆っていた。
ツァガントルー領へは、内陸の海を回り込む形で三日がかりで帰る。
一昨年、アルワンは
10年前、オユンのいきなりの訃報を、きょうだいたちは受け入れることができなかった。遺骸の
当時、アルワンのきょうだいたちは、もういっぱしの働き手である男子、
オユンの財布が砂漠より離れた場所で血の染みもなく、みつかったことが、きょうだいに、「もしかしたら」という希望を抱かせた。
きょうだいは自分たちなりに捜索隊を組んで、あちこちを訪ねまわったものだ。その日々で、きょうだいたちは、ゆっくり、それぞれ、オユンの死を受け入れていった。
そして最後に、アルワンにオユンの財布が遺された。
アルワンより年下のきょうだいには、18歳で
馬はなだらかな山を越えて、下り坂にさしかかった。アルワンは馬の速度を落とさせ手綱をゆるめ
ここまでくれば、ツァガントルー領は、もうすぐだ。
ツァガントルー領は
歴代のツァガントルー伯は西側の守りに徹してきた。かつて点在した小部族と小競り合いを続けつつも最後には友好を築き、戦乱の孤児は自国民にこだわらず保護してきたから、それが今の独自の守りとなっている。
どうやら、アルワンも、その辺りの部族の末らしかった。赤毛は、西の果ての国の部族の髪色だという。
平地に入り馬を走らせ、アルワンは一気にツァガントルーの館の正門につけた。馬から降りたアルワンは門番に馬を任せ、まっすぐ執務室に向かう。
父との約束の休暇を一日、超過していた。
「ただいま帰りました!」
アルワンは勢い込んで、執務室の扉を開けた。
「うん。お帰り。書類がたまっている」
机で執務中のツァガントルー伯は、それだけ言って顔もあげなかった。
「だが、足くらいは、すすいでこい。
「はい……」
アルワンが振り向くと、館の召使いがふたり、たらいと水差しを抱えて追いかけてきていた。
彼らと執務室の横の控室に入り、足をすすぐことにする。
結局、服も土埃だらけだと判断された召使いに、半裸にされた。
新しい衣がくるまで、アルワンは肌着姿で椅子に座ったまま腕組みして待つことになった。
別の気が利く召使いが、茶の椀を捧げ持ってきた。
「御視察、お疲れさまでございました」
若いアルワンの、ここでの役割はツァガントルー伯の手足となって、
「ああ」
アルワンは、あいまいに答える。ほのぬくい茶を口に含むと、やっと
(それにしても、姉さんのあの若さはなんだ)
思い出すと、アルワンの体温があがった。
オユンは10年前、29歳だった。
結婚の早い女子だったら、アルワンが息子であってもおかしくなかった。
しかし、10年ぶりに会った姉は、あのときのまま。同年代にしか見えなかった。
アルワンが、いくぶん心の視力をやられているとしてもだ。
馬で帰路を駆けている間、ずっと考えていた。
(あの姉さんなら、ぼくの伴侶として隣にいてもいいじゃないか!)
そう思うと、また
(姉さんは記憶を失くしたところを、あの魔導士につけこまれたのちがいない。いや、記憶を失くさせたのは、あの魔導士なんじゃないか)
銀の髪に
だとしたら、とんでもない
それを想像してしまって時と場所を選ばず、アルワンの若い下半身は反応してしまった。
(いやだ。姉さんを取り戻したい)
まず、兄のひとり、タヴィスに相談しようとアルワンは考えた。
※この世界の地図は、うすぼんやり。
山脈あり砂漠あり、東欧と中央アジア、東アジア、あの辺りが、ぎゅっと近づいた
感じ。中世モード発動して、移動は騎馬か徒歩。わりと時間がかかる設定。その時
代の人は当たり前のように長距離、移動しています。
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