第40話

クレアの婚約発表から3年。

彼女は去年、見事国立騎士団近衛大隊に入隊を果たしたアーノルドと、彼の実家のある王都で盛大な結婚式をした。

私は領都でカレン商会名義の総合美容店をオープンし、領都に移住。

結婚前まで、月に一度は店を訪れる彼女のお手入れを、専属で担当した。

今は王都で暮らすクレアに、早く王都に店を出してくれとせがまれながら事業拡大のために必死になっている。

因みに、その間のアルと私の関係は友達以上に発展し、ちゃんと恋人と言える状態になっている。

あの衝撃的なアルの告白から、一年。アルが見習いを卒業し私が領都に移るまでは手紙のやり取りと極たまにデートが出来る程度の遠距離恋愛だった。

お母さんとお婆ちゃんには笑顔で、お父さんには泣き顔で見送られてから2年。

今日は、領都の総合美容店の開店2周年記念日である。

別に何をするでもなく通常営業だが、お店が軌道に乗ったこともあり、従業員には今月は特別手当を出すことを伝えてある。

まぁ、去年も出したので毎年恒例のボーナスみたいなものだけど。去年よりは、多く支払うつもりでいる。

この世界の福利厚生はズタボロだから、うちのような社員を大事にしようと頑張るホワイト企業はまだまだ少ない。

おかげで、業績と信頼と採用募集倍率がうなぎ登り。

王都まで名を轟かせ、お忍びでやってくる王都からのお貴族様達にまで早く王都に店を出してくれと泣かれる始末。

2年程前に隣国の王子とご結婚された王女殿下からも未だに注文は届いていて、隣国でも密かに話題に上っているというから恐ろしい。

私の未来は、順風満帆のはずだけど…アルからのプロポーズは、未だ無い。

何故なのか、仕事より頭を悩ませている今日この頃。

「店長、泥パックの在庫が5人分を切りましたので、発注をお願いいたします」

「はいはい」

「店長、明日お見えの予定のアリステラ様から急遽お嬢様をお連れしたいとの連絡がありますが、どこかで時間空いてますか?」

「ん~、何とかねじ込みましょう。お嬢様の施術は、私が入ります」

「お願いいたします」

「店長」「店長」「店長」

あぁ…忙しい…

私が忙しくて中々アルと会えないのが原因なのかと、本気で悩む。

そろそろ誰かにお店の切り盛りを変わってもらってもいいかもしれない…

「店長、お手紙です。店長のお父様からかと…」

「ありがとう」

手紙の中身を確認すると、長年待ち続けていた朗報が届いた。

私の顔がどんな表情になっていたのかわからないけど、従業員たちが津波の前兆の様に私からさ~っと一斉に離れていった…何故だ…

「店、ちょ…?あの、どうなさいましたか?」

「ん?んふふ~!近々、しばらくお休みをお貰うわ。それまでに決まっている業務はこなします。それ以降は、リアーナさんに、店長代行をお願いするわ。よろしくね。ちゃんと引き継ぎはするから!」

「え?ちょっ!あの、私ですか?」

「あなた以外のリアーナさんは、うちの店には居ないでしょう?」

え〜っ!!と絶叫する従業員を置き去りにして、私はサッサとスケジュールを調整した。

待たせられないのよ!師匠が、ヨモギが、私を待っているのだから!!


「アルー!お疲れ様~!はい、これ差し入れ」

「ありがとう。どうしたの急に」

「うん。あのね、私、実家に帰るね」

「は?なんで?僕は捨てられるのかい?」

「ん?なんで?師匠が、待ってるのよ。ヨモギかもしれない草と一緒に、私を待ってるの」

「あ…あぁ~。そうか。それは、よかったね」

「うん。だから、帰る。こっちに戻ったら、話があるわ」

「え?え…と、何だろう?」

「楽しみにしてて。じゃ、用意をして、帰るわね」

呆然と私を見送るアルをちょびっと可哀そうに思いながらも、何も言ってくれないアルも悪いんだからねっと、メンヘラツンデレ嬢みたいなことを考えながら置き去りにしてみた。

少しは、不安になったりしたらいい。私は、ずっと待ってるのに。



「ししょ~!」

「カリ~ン!」

「お久しぶりですね!どれですか?鑑定結果は?どこですか」

「元気だったみたいだね。慌ただしいなぁ。あっちだよ」

「早く早く」

「ご家族には、挨拶に戻ったのかい?」

「まだ。だけど、こっちが先!早く早く早く」

「はいはい」

丸薬などの薬草の新たな可能性をもたらしたとして特級魔法薬師になった師匠の下に、隣国の冒険者からもたらされたと言う謎の草は、どこからどう見ても、YOMOGI!!長年私が探し求めた、ヨモギ、蓬、よもぎである!

私のテンションは、天を貫くほどに高くなり、ちょびっとイケメンなはずの師匠の顔は、ドン引きの表情であった。

これから、師匠と共に研究してヨモギが新たな有用植物であると確立し、食べて良し・飲んで良しのどう使っても有用なヨモギを国内外に認めさせないといけない。

そして、ヨモギの有用成分を使って師匠は薬を、私は念願の座勳を完成させるのだ。

今や、私たち師弟は国随一の注目魔法薬師師弟である。何気に私も、二級薬師として独り立ちしているし、来月には一級資格を受験するつもりでいた。

だがしかし、ヨモギが先なので今回は見送りだ。ぜんっぜん構わない。座勳、大事。

女性の悩みが減って、出生率が上がって、健康に子供が育って労働力になり、国が発展し潤って、好循環!素晴らしい!

忙しくなる。アルの元に帰るのがいつになるかわからないし、無事に結婚できるかなんてわからないけど、やってやる。

でも、多分、しびれを切らしたアルが結婚指輪を持ってプロポーズしに来る気がする。ってゆうか、来てほしい。いや、来いよ!と、密かに思っている。

それはともかく、ここまで来たらこの世界の全員に美容と健康はエステティシャン・カリンとカレン商会がもたらしたのだと、認めさせるんだから!



カリンちゃん、世界初のトータルビュティーアドバイザーとして、歴史に名を残しますっ!!


                               fin.

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エステティシャン・カリンの異世界転生物語 あんとんぱんこ @anpontanko

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