第7話『E班救出作戦・闇と影その1』

 ─────ここは同じく東京都、巣足すたり区。

 港区と品川区の間に出来た区であり、元々港区の割合の方が多かったために比較的金銭に余裕のある若者が集う。

 その影響か、高級ホテルやブティックなどが増え続け、通称『異常な愛情ストレンジ・ラブ』と呼ばれるほど出会いの場となっている。


 そんな巣足すたり区のとある公園に、墨香すみかけんは訪れていた。

 この公園の名は、『九分陸きゅうぶりく公園』である。

 博士はくし駅(北品川駅と品川駅の間に位置する)東口の前にあり、公園の中央には『青銅製の時計台』のモニュメントが設置してある。

 時刻は夕方、オレンジ色に空が染まる頃である。

 昼頃、じょう湧座わいざの2名を救出した旨の連絡を受けた後。


 公園の目の前まで来ると、仲のいい訳では無い二人は相変わらず言い合いの最中さなかである。


「ッチェ……なんでお前なんかと一緒にここまで来なきゃなんねぇンだよ……。」

「こっちのセリフですわ!! 貴方みたいな野蛮人、おととい来やがれですわ!! まだ初仕事をこなした、嘘つきの酒蔵さかぐら様の方が良かったですわよ!!」

「言うじゃねぇかデカチチ!!」

「それこのご時世じゃアウトですわよ馬鹿ボウズ!!!」


 しばらくして二人は公園の門をくぐると、トランシーバーから連絡が入った。

 ザザザッと砂嵐混じりの音声は紛れもなく一斗いっとの声である。


「聞こえてるか? どうせ二人は喧嘩してるんだろうけど、よく聞いてくれ。」


「公園内中央のモニュメント、緑色の時計台…通称『キングコングの時計台』に発信機の反応があった。E班は見当たらないけど、そこへ行けば何かわかるかもしれない。」


 二人はその連絡通りに時計台を目指した。

 ザッザッと砂利を踏み鳴らしながら歩く二人、静寂の公園内。

 不気味な雰囲気と遊具の影が二人をいざなう。

 歩くこと約3分、目的の時計台へと到着した。

 カーカーとカラスが鳴く中、けんは後ろを振り返り墨香すみかに声をかけた。


「着いたけどよ、一見何も無……あれ?」


 けんは困惑した。

 振り返れば、墨香すみかの姿が見えないのだ。

「どこへ行っちまったんだ?」となげけん

 この3分の間にどこへ消えたのか。その答えは、向こうの方から向かってきた。

 辺りを見回すけんは、背後から肩へ手を乗せる感覚を感じた。

 当然その方へ顔を向けるけん。ビクッと驚いた表情は貼り付けられたように変わらなかった。

 さらに背後から、ほほをサラリと触れる感覚……振り向いてもそこには『時計台』しかない。


「お、おいギネス……冗談はよせよ。ふざけてる場合じゃねぇンだぜ?」


 すると突然、夕焼けが照らす公園内、木々の間の暗い闇の中から声がした。

 男の声、低く30代くらいだろうか。


「お嬢さんは、私の仲間と一緒だよ。あっちはあっちで、楽しくってるよ。」


 静寂だった公園内は、突如として殺気立った雰囲気に変わった。

 鳥たちの鳴き声は激しくなり、風も木々をたなびかせる。

 その声の主は、なかなかこちらへ姿を表さない。

 けんは時計台の裏へ姿を隠すと、声の主へ向けて声を返した。


「ど、何処へやったんだあの女を! あんなんでも令嬢なんだぞ? さっさと出て来いよ弱虫!!」


 少量のおびえを含むその声は、姿の見えない声の主を笑わせた。

 フフフフッと馬鹿にしたように笑うとまた、声をかけた。


「出て来いと言われて出てくるバカも珍しいよ。これから君を痛ぶってやるよ。」


 そう言われると、けんは考えていた。ハッキリ言うと、けんは『頭が悪い』のだ。

 カッコよくバッと出て相手をぶん殴りに行くか、このままジッとして助けを待つか。

 話を聞く限り相手は二人組。その片割れがこちらと対峙しているのは理解している。

 カッコ良さを優先するか、二人に対し分が悪いので助けを待つか。

 考えに考えた末に出した答え、それは…。


 けんカッコ良さを優先した。

 バッと時計台の影から出ると、何やら両手で、綱引きのように『引っ張る動作』を行い始めた。

 左手と右手を入れ替えながら、綱引きのように引っ張る。

(なんのジェスチャーだ?)と声の主は考えるが、この動作は意味の無い物ではない。

 けんの両腕には、動作をやるにつれて『紫電(紫の電撃)』をまとい始めた。


「……『闇深い黒ブラックホール・ダウン』……『零罵照引レヴァーテイン』……!!!!」


 声の主は、木々闇の中で不思議な現象を味わった。

 声の主はけんの方向へ『引っ張られる』感覚を覚えた。

 引っ張られる、何かロープを絡められ、綱引きで引き寄せられている感覚……その感覚はだんだんエスカレートしていく。


「な、なんだこれはよ……引っ張られるよ…脚で踏ん張るのもやっとだよ…!」


 その引っ張られる感覚、ついには、ありえない現象を引き起こした。

 声の主は、引っ張られる感覚がまるで『横に落ちる』感覚へと変わった。

 落ちる…落下はあらがえない。声の主はまさに前方、けんの方向へ落ちていく。


「お、落ちるよ!! ダメだよ、横方向に落ちるよ!!!」


 声の主は飛び出すように木々から姿を現した。夕焼けに照らされたその姿は、黒髪の長髪に、黒い『競泳用水着』と不思議な格好をしていた。


「この『零罵照引レヴァーテイン』という技は、ある程度の距離が離れた対象を『強力な引力』で引っ張る技。」


「そして俺の能力、『闇深い黒ブラックホール・ダウン』の能力は、『自身の身体をブラックホールに変える』能力!!」


 けんの右腕は、肩から指先まで、真っ黒に変化した。

 能力により紫電をまとい、少しモヤのかかった漆黒の右腕。

 けんはその腕で、こちらへ引っ張られているその男へ向けて『ラリアット』を喰らわそうとした。


「喰らえ!! 『世来暴蔑宮セックヴァベック』!!!」


 そのラリアットは、飛んでくる小石、木の枝、木の葉などを巻き込むと、それらを一瞬で『消滅』させた。

 けんの能力で『ブラックホール化』させた部位に物体、物質、生物……あらゆる物が触れた場合、その触れた箇所は消滅する。

 粉微塵こなみじんになって、さらに粉微塵に……さらに粉微塵に……それを繰り返し最終的に消滅する。

 それが、けんの能力『闇深い黒ブラックホール・ダウン』なのである。

零罵照引レヴァーテイン』という技は、そのブラックホールの引力を利用した技と言える。


 前へ落ち続ける男、彼はブラックホール化したけんの腕のギリギリまで到達すると、自身の能力を使わざるを得なかった。

 男は、けんの足元から伸びる影に手を触れると、能力を叫んだ。


「あ、危ないギリギリだよ!! 『影の中の男マン・イン・ブラック』!! 『入裸RISEニューラライズ』発動だよ!!!」


 けんがラリアットとしてブンッと腕を振った瞬間、目の前から飛んで来た男はフッと姿を消した。

 ブラックホールに巻き込まれ消滅したのか。しかし、巻き込まれた箇所しか消滅しない能力、一瞬にして大人一人の全身を消滅させるとは考えにくい。

 けんは考えた。

 何か能力を使ったのか? 高速移動? 瞬間移動? そう考えている隙に、背中へ激痛が走った。


「痛ってぇ!!! 背中になにか刺さったのか!?!」


 けんの背中、肩甲骨辺りに、ナイフが刺さっていた。

 後ろに誰かが立った形跡も、気配もない。

 ブラックホール化している右腕で背後を殴るが、腕は時計台を削り取り、腕と同じ太さの穴を開けただけだった。

 兎に角、けんは背中に刺さるナイフを引き抜くと、左手をブラックホール化させてナイフを消滅させた。


「一体どこから攻撃してきたんだアンにゃろうめ……絶対消してやる!!」




 ───能力詳細不明の能力『影の中の男マン・イン・ブラック』……現れては消えた男の正体とは……けんは漆黒の謎に包まれている。

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復讐の寄生虫 @asakiyumemisi_ehimosesun

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