天使くんの世界観レビュー……なんかラブコメみたいな展開が多くない?

かなえ@お友達ください

第一話

 ここは天界。現世で死んだおびただしい数の人間達が全てここに訪れ、裁判を受けて地獄か天国行きかの判決を言い渡される。


「アンナ様、これで今日の仕事は終わりました」

 その天界のほとんど全てを管理している女神、アンナ様は俺の声を聞くとふう、と息を漏らした。


 俺は一介の天使の時にその腕を買われてアンナ様に引き抜かれ、そこから側近として長い間仕えてきている。


「最近何やらお疲れですか?」

「え!? 分かる……?」

 驚いた顔をするアンナ様。

長い間仕えてきたからこそ分かるが、最近のアンナ様の業務にはいつものキレがない。この反応はやはり図星なのだろうか?


「……お疲れのようでしたら、少し休暇をとってみたらいかがでしょうか。何故か最近業務も減ってきていますし」

 今まで全く疲れた様子のないアンナ様を見て、てっきり女神には疲れという概念が無いのかと思っていた。


 人間ほどではないが、俺達天使も疲れる。そうしたら当然休暇を取る。俺もギリギリまでは働くが、定期的に休む期間は取らせてもらっている。


 アンナ様はいつも私がやっておくから。と笑顔で承諾してくれるが、やはり女神という唯一無二の存在でも例外ではなかったのだ……

気づかなかった事に罪悪感が生まれる。


「あのさ……明日って時間ある?」

「え? まあ一応……業務が終わればですけど」

「これも業務。しかも超重要! 疲れてるのはこれが原因なの! それ以外で用事ない?」

 少し俯いてこちらに話しかけてくるアンナ様。どこかいつもよりも早口のような。


 俺は特に予定などないので、それを伝える。アンナ様はこちらに顔を向けずに良かったと返答した。




 超重要、という単語を聞いて少し緊張してしまっている。だがそれ以上に気になってしまう。

あの後帰っていいと言われ、帰路に着いている途中で先ほどの言葉を頭の中で反芻させていた。


 あのアンナ様が業務に支障をきたす程気に負っていた案件……俺が力になれるだろうか。




 家の扉を鍵で開けると、中から物音がしていた。

しかし空き巣などではない事はわかる。家に定期的に不法侵入してくる奴には心当たりがある。


「エル……合鍵は前没収したよな?何でいるんだ?」

 そのまま廊下を歩き、奥に行くとやはり見知った奴がそこにはいた。


「もう少しでできるから待っててよ」

「おい」

 エルは俺が一介の天使として働いていた時代の同期。彼女は俺がアンナ様に引き抜かれた後も働き続け、順調に出世していた。今では俺とそこまで立場は変わらない。


 こいつは何処からか俺の家の合鍵を作り、昔から俺の家に勝手に入っては何故かご飯を作ってくれたり、家を掃除してくれたりする。


 正直迷惑か迷惑じゃないか、で言ったら迷惑じゃない……滅茶苦茶助かってる部分もある。


 しかし、いくら長い付き合いで、悪い事はされていないとは言っても流石にプライベートゾーンに無断で人がいるのは困るのだ。


 だが別になあ……という微妙な関係と空気感が俺とエルにはあった。


 しかし、この前俺のを掃除している時に捨てられてしまい、思わず合鍵を取り上げてしまった。その後は家にいる事はなかったし、流石に諦めたのかと思っていたが……


「あれはごめんって!もうしないからさ……っとと」

「……運ぶぞ」

 ぐつぐつと音を立てる鍋からシチューと思わしき液体を二つの皿に入れ、両手で運ぼうとするエルに手を差し伸べる。


 こいつは昔から少し危なっかしいところがある。

家事が得意で世話焼きな少し危なっかしい女の子……


「お前ってヒロイン適正高いよな」

「はあ……? ひろいん?」

 エルに言葉を繰り返され、ハッとする。考えていたことが口から出てしまっていた。疲れているのか。だとしたら明日のことがプレッシャーになっている事が関係してそうだ。


 机に二人とも運び終わり、向かい合わせで座る。ナチュラルに一緒に食べようとしているが、晩御飯を作ってもらって出ていってもらうのは何か申し訳ない。


「天使、私と近いうちに出かけない?最近仕事が回ってこなくなってきたから、休暇取ったんだよね」

「あー……ちょうど明日から俺忙しいかも」

 スプーンで皿からすくったそれを口に運ぶ。やはりそれはシチューで、夜の冷えた空気にあたっていた体に染みていた。


「えー、いつ暇になるの?」

「わかんない。ってかお前も最近仕事が減ってきてんのか」

 エルはアンナ様の業務と同じ状態らしい。


 ざっくりいうと重要な事や大まかなことをアンナ様と俺が処理している。エル達が担当しているのは天界で行われる裁判の結果の整理や、天界の内部事情などの細かい部分だ。


 天界全体の業務が減っているのか?


「うん。女神様のとこもそうなの?こっちは天国の奴らが協力的で。しかも! なんなら地獄の奴らも何だかいつもより素直に従ってきてさ!」


 現世での死者は、こちらの天界でまずアンナ様が裁判をする。そこで天国行きか地獄行きかが決まるのだが……


 天国、天界、地獄はどれも欠かせないものだが、関係が良好かと聞かれたら全くそんな事はない。


 その三つ全てを統べる「神」がいる天国は天界のことを小馬鹿にしてくるし、地獄の奴らは天国と天界を何処か敵対視している。


 何より面倒臭いのが、天国と地獄の奴らはあまり関わる事がない分、俺ら天界にヘイトが集中するのだ。


 天国で暮らしている人間が何か悪いことをしていたら地獄に落とし直す必要があるし、地獄での罰が終わったやつは天国へと行ける。


 当然、その作業も俺ら天界が請け負っている。

そのデータを受け取り整理するのもエル達一介天使の仕事なのだ。


 俺も昔その仕事をしていたからわかるが、その受け渡しの時の俺らの扱いが酷い。特に地獄の方は目に余る程だった。


「天国の奴らはなんかニコニコしながら手伝いますよ。とか言ってきて! ちょっと怖いくらい。地獄の奴らも前みたいに舐めた態度取らなくなってたし」

 エルが普段からする愚痴と、新人時代天国と地獄の奴らと関わってきてその酷さは知っている俺もその話を聞いて少し気持ち悪さを感じた。 


「それが気持ち悪くてさ」

「休暇とった理由ってもしかしてそれか?」

 その後はエルと久しぶりに会話をしながら晩御飯を食べ、泊まると言い張っていたエルを帰らせた。




「さて、と」

 自室に入り、本棚から一冊の本を取り、ベットに寝っ転がる。


 俺が読んでいるのは現世で手に入れた「漫画」という物だ。


 現世での視察でたまたま見つけて、本当はダメなのだが人間の姿に紛れて試しに読んでみた。そしてまんまとハマってしまった。


 俺の部屋の本棚は仕事に関する本と漫画が半々……いや、漫画の方が多いな。大分。


 こうして寝る前の時間や休暇にこれを少しずつ読み進めていくのが至福の時間なのだ。定期的に現世の視察に行くが、その度に買い足しているので全て読んでしまう事はない。


 俺が最近ハマっているのは、「ラブコメ」というジャンルだ。甘酸っぱいものからギャグに走りつつもちゃんと男女の描写が描かれているものまで数広く読んできた。


「今日は明日に備えて早めに寝るか」

 漫画を読み始めて以降、たまに熱中して寝れない事がある。しかし明日はそういうわけにはいかない。


 いつもよりかなり早い時間にもう電気を消し、目を閉じる。


 アンナ様に言われた超重要な業務という言葉が頭に残ったまま意識は落ちていった。

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