空架高校生徒会長王宮アサヒ

「王宮……それも空架の生徒会長?」


 僕が繰り返すと、アサヒはあぁ、と頷いた。


「オレは王宮財閥次期当主兼空架の生徒会長だ」

「やっぱり、王宮の人なんだ」


 王宮財閥。それは世界有数の財閥だ。日本で様々な業界で成功を収めているのもあり、どの分野で有名かと言ったら断言に困る。ただ一つ言えるのは、とんでもないお金持ちということだ。


「そんで、アンタは?聞いたところ先生らしいが、アンタみたいな先生は見覚えがない」

「僕は福本カズネだよ。新しくプラチナムに派遣された先生なんだ」

「証拠のホワイトベルは?」

「ここにあるよ」


 アサヒが近づいてきたので、首にかけているホワイトベルをアサヒが見やすいように持ち上げた。アサヒは僕のホワイトベルを見ると、納得したように頷いた。


「疑って悪かったな」

「ううん、気にしないで。アサヒもそうせざるを得ない状況なんでしょ?」

「あぁ、そうだな。物分りの良いヤツは嫌いじゃないぜ。……が、三鉄の番長連れてきた了見については聞いておきてぇところだな」


 アサヒは僕越しに、後ろの操に目をやった。操は黙ってこっちを見ている。どうやら、説明は僕に任せる気のようだ。僕は頷き、口を開いた。


「僕は今先生狩りについて調べてるんだ」

「自分が狩られるかもしれねぇのにか?」

「うん。黙って見ているだけは嫌だからね。それで空架でも話が聞ければと思って来たんだよ」


 ……嘘は言ってない。正直に操から聞いたから、と言えば良かったのかもしれないけれど、それでは三鉄と空架の関係が悪化しかねない。なにせ相手は空架のトップだ。三鉄関係については慎重に言葉を選ばないと。

 

「へぇ、うまく誤魔化したな」


 けど、僕の目論見はあっという間に看破されてしまった。ニヤリと笑ったアサヒは、カツカツとヒールを鳴らし僕にまた近づいた。


「正直に言えよ。そこの番長さんに唆されて来たんだろ?先生狩りの犯人が空架だってな」

「なっ……!唆すなんてことあたしはしない!!」

「テメェは黙ってろよ。つーか引っ込んでろ。オレは今先生と話してんだよ」


 操が割り込むと、アサヒは途端に冷たい瞳で操を射抜いた。さすがは王宮の次期当主なだけあって、彼女の威圧には操もたじろいでいる。


「で?どうなんだよ、先生」

「――違うよ。操は、僕を唆したりなんかしてない」

「……へぇ?なるほど、先生は三鉄の肩持つんだな」

「それも違う。僕は生徒みんなの味方だ。僕は、みんなを信じたいんだよ。そこに三鉄も空架も関係ない。僕が疑うのは、君たちを信じるためなんだよ、アサヒ」

「オレたちを信じるために疑う?」


 僕は頷く。


「疑っている時、僕は君を見定めようとするだろう。だからこそ、偏見も何も持たず君の意見が聞けるんだよ。それこそ、アサヒが王宮の人間であることも関係なしにだ」

「!」


 アサヒは目を見開いた。さっきまで余裕に満ちていた顔は、今は驚きに満ちている。そして一瞬目を伏せると、また僕と目を合わせた。


「……先生がどんな目的で来たにせよ、いずれアンタの手借りる必要はあるしな」

「え?」

「いや、何でもねぇ。全員ついてこい、腰を落ち着けてゆっくり話そうぜ」

「良いのですか?アサヒ様」

「あぁ、構わねぇ。この際使えるもんは何でも使うもんだ」


 どうやら僕たちはアサヒのお眼鏡に適ったようだ。僕が安堵の息を吐くと、操が肩を組んできた。


「やるじゃん先生!見直した!」

「さすがは福本先生であります!小生の見る目は間違っていなかったであります!」

「二人ともありがとう。さすがに少し緊張したけどね」


 


 そんな三人を、アサヒはじっと見ている。


「……緊張した、ね」


 よく言うものだ。あれほど落ち着き払い、炎の灯った瞳を見せておきながら。

 アサヒは出自が出自なだけに、色んな人間を見てきた。その中にはもちろん契約者やカムイだっていた。しかし、カズネのような人間を見るのは初めてだった。王宮財閥次期当主の自分に媚びへつらうこともなく、女だからと驕ってくることもない。アサヒの周囲には、常に翳りに満ちた思いしか渦巻いていなかった。彼女が信じられる人間は、幼い頃から側で仕えてきて今も隣に控える志道しどうケイくらいなものだった。


 けれど、カズネは。真っ直ぐな意志を瞳に宿し、信念のためだけにアサヒの瞳を射抜いてみせた。あれほど真っ直ぐな信念を持つ人間を、アサヒは見たことがない。


「……眩しいな」


 自然とアサヒの口からはそう漏れていた。まさか目を焦がす光の名を持つ自分がそう他人を評する日が来るとは。アサヒは口角を吊り上げ、未だ戯れる三人のもとへ向かった。

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不香ノ花、玲瓏ノ響 夜野千夜 @gatatk

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